Toulouse-Lautrec / 快楽の女王 × シャルドネ(後編)

Lautrec_reine_de_joie_(poster)_1892

 

Toulouse-Lautrec(以下、ロートレック)の「快楽の女王」が官能小説のワンシーンを描いたものであり、銀行家のおっさんが高級娼婦の店に行く前の同伴の場面であろうことは、前編で述べた通りである。

つまり、シチュエーションとしては「パリの格式高いレストランで高給取りのおっさんが若いオンナと飲むワイン」ということになる。以前フィーチャーしたGustave Courbetの「オルナンの食休み」とは異なり、必ずしもその土地固有のブドウ品種ということでもなさそうなので、自由に妄想させて頂くことにする。

 

場所と時代は変われど、若いコ好きのおっさんとパトロンを求めるオンナの構図は、今も昔もさして変わらない。夕刻の銀座では、よく見る光景である。

数寄屋橋交差点にほど近いビルの一角にひっそりと佇むChinoisは、フレンチをベースとした和洋折衷の料理とオーナーがコレクションした約800種類ものワインのマリアージュを楽しめるということで、ワインラヴァーには垂涎の店である。土地柄、18時を過ぎれば、Chinoisにもそのような「関係」の男女が自然と集う。

6〜7年前に上司に紹介してもらってから筆者も通うようになった店だが、店内で良くこんなやり取りを目にする。

ソムリエ:ワインはいかがなさいますか?
おっさん:何でも飲みたいものを飲めば良いよ。
若いオンナ:私、ワイン詳しくないから、●●さんのオススメの白ワインが飲みたい!
おっさん:うーん、じゃあワインリスト持ってきてくれるかな。
ソムリエ:畏まりました。

 

行かれたことがある方はご存知かと思うが、Chinoisのワインリストには1本1万円程度のものから10万円を優に超えるものまで、幅広くon listされている。筆者にはもはや「心踊る、悪魔のささやき集」にしか見えないが…

 

IMG_2045
「悪魔のささやき」との戦いは続く…

 

それなりに高級な白ワインをボトルで1本だけ開けるということになった場合、若いオンナがそこに居ようが居まいが、真っ先に思い浮かぶ品種は「シャルドネ」であろう。認知度が高いことに加え、どのような料理に対しても主張しすぎない「ニュートラルな個性」を持つためである。決して「特徴がない」と言っている訳ではない。シャルドネの産地と言えばブルゴーニュがまず挙げられるが、その特徴は粘土石灰質の地層に由来する「豊かなミネラル」やリッチすぎない「エレガントな樽香」であると筆者は理解している。そのような穏やかな個性が、食材の良さを一段と引き立てるということである。

恐らく女性サイドからしても、男性に「ブルゴーニュのシャルドネを開けよう!」と言われた方が「アルザスのリースリングを開けよう!」と言われるよりも嬉しいのではないか。一部の「マニアック女子」を除いての話ではあるが…

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Aloxe-Corton村のブドウ畑。Corton-Charlemagneを筆頭に良質な白ワインが造られる

 

さて次は、数あるブルゴーニュのシャルドネの中からどの1本を選ぶのかということになる。ワインは基本的には「生産年」「造り手」「AOCの階級」の3つの変数により価値が変わってくる。

「生産年」は単純に古いか若いかという要素よりも、その年の天候その他がワイン造りに適していたかどうかという要素の方が大きい。

「造り手」は言わばブランド価値であり、信頼の表われである。

「AOC (Appellation d’Origine Contrôlée) の階級」は生産地の特定であり、ブルゴーニュの場合、地方名(ex. Bourgogne)→地区名(ex. Côtes de Nuits)→村名(ex. Vosne-Romanée→畑名(ex. Premier Cru Aux Malconsorts / Grand Cru Romanée-conti)と生産範囲が限定されていく中で、その品質もより保証されていくことになる。Grand Cru(特級畑)やPremier Cru(1級畑)というのは、畑に対する格付けである。

つまり「良い年」に生産された「良い造り手」の「特級畑名」ワインが、市場価値としては最も高くなる。

Chinoisでお食事されているような銀座のお姉様方は、いくら「私、ワイン詳しくないから…」とは言っても基本的なことは知っているし、そもそも鼻の効く人たちである。そのような中で、おっさん達は適度なプレッシャーを感じながら、そのひと時を愉しむための、とっておきのシャルドネを選ぶことになる。

 

画中のワインに戻る。

そのような状況下でワインを選ぶ場合、若いオンナに対するおっさんの見栄というのもあるだろう、Bourgogne地方はCôte de Beaune地区のPuligny-Montrachet村のPremier Cruくらい選ぶことになっても特に違和感はない。Puligny-Montrachet村と言えば、最高峰の白ワインを産み出す、指折りの銘醸地である。

但し、今回はPremier Cruではなく、村名ワインに留めたい。それには当時の事情がある。

ロートレックがモンマルトルに移り住んだのは1880年代半ば、標題の絵が描かれたのが1892年である。察しの良いワインラヴァーは既にお気づきかと思うが、フランスは当時フィロキセラ (別名ブドウネアブラムシとも呼ばれる害虫)の被害でブドウ畑が壊滅していた時期である。Jancis Robinson女史の“The Oxford Companion to Wine”には「フランス国内のワイン生産量は、ピークであった1875年の8,450万hlから、1889年にはわずか2,340万hlにまで落ち込んだ」との記述があり、被害が甚大であったことが伺える。需給を考えれば、ワインの取引価格は相当高くなっていたはずである。村名ワインと言えども大変貴重であったに違いない…

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1890年にイギリスの週刊誌“Punch”に掲載されたフィロキセラのカリカチュア

 

Belle Époqueの隆盛を極めた1901年に、ロートレックはソーテルヌ&バルサック地区のCadillacに程近いマルロメで没した。マルロメにはロートレックの母親が所有していた邸宅があり、ワインの醸造も行われていたという。

ロートレックはその死後に彼が考案したレシピが本となって発売させるほどの料理家としても知られているが、今でもChâteau Malroméのエチケットとなって、天国からフランスの食文化を見守り続けている。

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フランスの食文化を見守り続けている

 

次回はEricoさんのターンです。噂には「丸眼鏡」に「おかっぱ頭」が特徴的なあの画家と聞いています。ん、ひょっこりはん?!

 

Toulouse-Lautrec “Reine de Joie” (1892) トゥールーズ=ロートレック美術館所蔵

Written by Fumi “Frank” Kimura

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