
寄り道、フジタの薔薇
作品から一度逸れます。フジタといえば、ワインを知っている方ならばシャンパーニュ、G.H.Mummを想起する方が多いはずですので、せっかくなので軽くご紹介しておきます。
現在でも販売中のシャンパーニュ・ロゼのキャップに描かれている、バラのマーク。
これはG.H.マムの当時の社長だったルネ・ラルーがフジタに依頼して描かれた水彩画です。

思索と手紙の傍に
さて、しかし今回注目するのはご覧の通り、赤ワインです。
品質の良いものがリストされていたのは間違いなさそうです。
仕事帰りにリフレッシュの一杯、というのではもちろんなく、手紙を書くための時間を作ってカフェに訪れていることを考えると、彼女がこのひとときのために、ハウスワインの一杯でなく、こだわって選んでいても不思議ではありません。
そうなると、赤ワインであれば王道ボルドーかブルゴーニュといきたいところです。
しかもグラス提供してくれるものを。
形のない思いをしっかりと言葉にして紙に乗せていくもの。
気持ちの柱となってくれるような、骨格と密度があるワインのほうが、筆が確かになるような気がします。
mademoiselle
カフェの当時のメニューまではわかりませんが、参考までにグラス提供されている現在のLe Dômeのメニューをみてみると、気になるワインがリストされていました。
その名も、マドモアゼル。
まさにぴったりです。こちらはメドック格付け3級、名門 Château La Laguneのサードラベルでした。

2004年に生まれた新しいラベルですから、このワインが当時あったわけではもちろんありません。しかしなんとなく導かれましたので、自由に進めます。
Le Dôme をはじめ当時から続く歴史あるカフェは、時代とともに変遷はあれども、基本的な信念は変わらないのではないでしょうか。
ですのでワインセレクションもそうだと信じ、当時あったオー・メドックのワインをこのグラスに想像してみます。

ワイン好きでなくても知っているワインの代表 シャトー・マルゴー。その生産地であるマルゴー村も同じ左岸に含まれています。
そんな場面には、ボルドー 左岸の、骨格あるスタイルのワインが助けとなってくれたのではないでしょうか。
フジタがこの絵に回想していたと思われるのは1920年代のパリなのだけれども、このカフェのインテリアや人々のスタイルをみると、どうもその10年ほど前のものである、と言われています。
しかし今回は、実際に画家が思い浮かべたであろうワインをフィーチャーするため、彼がもっともパリに生きたと言える年代を軸とさせていただきました。
Léonard Foujita “Au café” 1949 パリ ポンピドゥー・センター蔵
Written by E.T.