Patrick Caulfield / Picnic Set × Corbières(後編)

picnic set

南へ

ワインボトルが4本という少々大きなピクニックセットを持って向かうは、ロンドンからなら南へサリー州か、海辺まで下ってブライトンあたりでしょうか。

季節は夏の終わり、陽射しはあるけれど夕方の風は冷たくなるような、そんな季節を想像します。

コルビエール、南仏のワイン

コルビエール
コルビエールの葡萄畑は、岩場や荒地が多くを占める広大な山岳地帯の土地に散在。

ワインボトルに書かれた、Corbières の文字。
これはフランスの南に広がるワイン産地の地名で、広大なラングドック=ルーション地方に位置します。

コルビエールで生産されるのは、90%以上が赤ワイン。
あたたかな気候で太陽をたっぷり浴びた、グルナッシュ、カリニャン、ムールヴェードル、シラーなどの黒ぶどう品種を混醸して作られ、たっぷりとした味わい、ふくよかな印象のワインになります。
多くは若飲みタイプなので、このワインもせいぜい1976年か77年あたりのものでしょうか。

マティスの回でも触れましたが、20世紀前半までは、フランス国内で消費されるワインは一部を除けば質より量。その中で、このラングドック=ルーション地方はその広大な土地ゆえ、大量のワインを生産していました。その多くが輸出にも充てられていても不思議はありません。

1985年以降は「AOC」という最高ランクのカテゴリーに分類されているコルビエールも、この作品が制作された1978年時点では、まだ「VDQSワイン」で、AOCのひとつ格下の位置付け。(今ではこのランクのカテゴリは廃止されています)

そのころは「気軽に飲めるテーブルワイン」という認識で、日本にも多く輸出されていたくらいですので、隣国イギリスでもスーパーなどで簡単に手に入ったはずです。

白ワインなどと違って冷やしておく必要もないし、気軽にピクニックに持って行くのにはぴったりでしょう。

P5272159
ハムもぶどうも、スーパーで調達して芝生の上。日常の風景です。

4本のワインの配役は

それにしても、同じワインが4本もというのは、よっぽどお気に入りだったのか、知り合いにインポーターでもいてまとめていただいたのか…と、ついストーリーを想像してしまいますが、実際のところは作品の仕上がりのためというのが自然でしょう。

バラバラした印象のモチーフの中で、同じラベルをまとめて視点を集中させることで画面に締まりが出ています。

しかしそこで、このワインがコルビエールである意義を見ることができます。

これがボルドーの格付けワインだったり、ブルゴーニュ特級畑のワインでは困るわけです。
作品が表現するところが、まったく異なってきてしまうからです。

ピクニックで楽しむワイン、これだけの本数を惜しみなく自然に配置できるもの。

かつ、存在感のあるワインであるためには、どこの世界で作られたかわからない、あまりにも無名なものではまたいけません。

というわけで、ワイン本国から、南仏のワインが抜擢されたのではないでしょうか。

 

picnic

豊かさの佇まい

さて、少しじっくりこの作品を見ていると、ワインだけでなく、背景のぶどうの柄や、やたらと数の多いコップ、水玉模様など、配色を除けば「豊富である」という概念が浮かび上がってくるように思えます。

強いブルーに抑制されてはいますが、それは本来はある種の安心や喜びのようなもの。
どこか不安感すら覚えるその強いブルーに対比されて配置されたまばゆい黄色が、夏の太陽の光を思わせて、文字通り希望のように見えます。

ここには描かれていないけれど、ハムやトマトを挟むためのパン(おそらく、スーパーで30ペンスくらいで売っている表面の硬くて白いロールパンか、Hovisの薄いスライスパン)、りんごや洋梨などのフルーツもころがっているはず。

本来こういう場面では、トマトよりは、絵になるりんごか何かを描き入れたいものではないでしょうか。
そこを、ハムの隣にふさわしいからなのか、ぶどう柄とケンカするからなのかわかりませんが、
ただそれだけの様子をピリッと準備したのが、なんとも甘えがなくいいなあと思うのです。堅実な豊かさという感じ。

さらにいえば、このエチケット(ワインラベル)の柄には豊かな葡萄畑。

画面全体の色合いや硬質なモチーフから一見 季節感は隠されていますが、ピクニックセットというタイトルを借りながら、夏の終わりから秋に向かう中、豊かな実りの秋への期待を込めたのかもしれません。

 

Patrick Caulfield “Picnic Set”/ 1978 Edition 100
所蔵 TATE Britain ほか
Written by E.T.

 

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