
愛の画家
シャガールの作品を思い浮かべる時真っ先に出てくるのは、鮮やかなブルーとさまざまなモチーフ; 花束、抱き合う恋人(飛んでいる)、山羊、サーカス、といったところでしょうか。
97歳までほぼ1世紀の長い生涯を生きた画家なので、キュビスムの影響、聖書画、故郷のロシアの風景、などある程度の多様性はあるものの、やはり彼を代表するのは、全体に幻想的で愛にあふれたイメージなのではないかと思います。
クリスマス迫るこの時期に、幸せな一枚をお届けしたく、今回シャガールを迎えました。
マルク・シャガール(Marc Chagall 1887-1985)はロシア(現ベラルーシ)出身の画家ですが、主にフランスで活躍しのちにフランス国籍も取得します。
最初の最愛の妻、ベラへの愛あふれんばかりに描かれた作品が注目されているため彼女が生涯の伴侶だったと思われることもしばしばある*ようですが、彼女はアメリカ亡命中に病気で亡くなっており、画家は60歳代でユダヤ人の女性、ヴァヴァと再婚しています。
*(実際に公式の観光サイトでも、南仏滞在時代にはいないはずのベラの名前が出てきていました)


とはいえ、亡くなったのが97歳ですから約30年ずつそれぞれの女性と過ごしたことになり、ヴァヴァの肖像もたくさん残しています。
「常に愛してもらっていたいだけなんだ」と画家本人が最晩年にこぼしている通り、常に愛を泳ぐように生きていたように感じます。
ところで今回、作品より画家の描写を多く取っております!
作品数がそもそも膨大なシャガールは、フィーチャーされる数自体が割合的に少なくなることや、個人蔵のものが多く公式な研究対象にならないせいなのかもしれませんが、
これだけの作品でありながら、英語でもフランス語でも見つかる資料は作品紹介に留まっておりました。日本語に至っては題名すらついていません。(しかし便宜上タイトルでは日本語に)
ですので今回は画家の長い長い人生を、垣間見てみましょう。
表現主義
シャガールほど、内面の感情を燃料に描き、その上でこれほどまでに評価された画家は、なかなかいないのではないかなと思います。
ベラへの愛、故郷への想い、パリという街への想い、ユダヤ民族としての誇り。
そんなものを、ピカソをして
「マティス亡きあと、シャガールのみが色が何であるかを理解している最後の絵描きだった。シャガールにあった光の感覚はルノワール以来誰も持っていなかった。」
と言わせるほどの色彩で描き切りました。
(実際のところシャガールはピカソに辛辣だったようですが)
そもそもは自身がロシアに見切りをつけて国を飛び出したにも関わらず、それでも彼は、生涯の作品を通して故郷と民族への想いを作品に現し続け、自分の中にある記憶の原風景を大切にした画家です。
表現主義だけでなく、若い頃のキュビスムや、フォーヴィスム、シュルレアリスム、象徴主義などさまざまな前衛芸術スタイルを使いながら、ユダヤ文化を融合させた作品を作り続けました。
例に漏れずヒトラー政権時代は亡命をしなければならなかったし、芸術家という身の上は自身だけでなく生み出した作品さえも抑圧され抹消されるという、二重の差別を被る人々です。
自分の原点、というと陳腐に聞こえるかもしれないけれど、自身のルーツをしっかりと掴んで制作をしてきたからこそブレずに、どんなに幻想的な作品を描こうとも綺麗なだけの何かにもならずに、モダニズムの画家の最後の巨匠となりえたのでしょう。
大創作の最晩年
1968年の数年前からは、すでに80歳を迎えるのにもかかわらず画家がもっとも精力的に制作をしていた時期です。
フランス国内だけで言っても、有名なパリ・オペラ座の天井画やシャンパーニュはランスのステンドグラス、そして大規模な個展も開かれました。


画家は、ロシアに生まれた後は何度かパリを行き来します。
その後アメリカへ亡命してそこで最愛の妻を亡くし、
再びフランスへ戻ってきて南仏の地を選び、
数回の引っ越しののちサン=ポール=ド=ヴァンスに終の住処である邸宅を構えました。
今回取り上げた作品は最後の引っ越しを終えたあと、彼が人生でもっとも豊かで落ち着いたところで描かれた作品です。
ひときわ鮮やかな青と赤のコントラストが美しく、テーブルの上にはまるまるとしたフルーツ、パイのような食べ物、ワインが添えられて楽しげな雰囲気。
サン=ポール=ド=ヴァンスの背景は自宅のテラスから見えた風景でしょう。
この邸宅は家というより屋敷といったほうが正確で、晩年も一日30分のエクササイズを欠かさなかったシャガールが、雨の日は家の中を歩き回ることで運動としていたほどの広さがありました。

ここで描かれているのがヴァヴァとシャガールなのか、あるいは若き日のベラとシャガールなのかはわかりません。
どちらにせよ、強烈とも見えるピュアな赤で描かれたふたりには、穏やかな、そして強い愛情が見えます。
彼らが乗っている鳥の下方は赤からマゼンタに色味が変わっているので、この赤色は恋人たちを包むもの、あるいは恋人たちからにじみ出ているものなのでしょう。
愛について
シャガールは恋人から深く情熱的な愛を識った画家ではありますが、その愛は世界に行き渡るもので、個人的感情に収まるものではありませんし、まして閉鎖的なものでもありません。
彼は南仏に自身の美術館がオープンした時にした演説があります。
この美術館というのが聖書をテーマに作った作品群のためのものなので、演説の中にもキリスト教的博愛精神を意識させるところがあるのは否めませんが、
「信仰している宗教のいかんにかかわらず、」とはっきり断っていることからも、私はここで言われているのは、彼の根本にある愛の言葉であると思います。
もしすべての存在が終末を迎えることを否応なく運命付けられているとすれば、私たちはせめて生きている間だけでも、その生を愛と希望という絵具で彩らなくてはならないのです。/
そしていつかきっと、私が皆さんに対して感じているこの愛の言葉を人々がここ(美術館)で口にするようになるでしょう。/
若者や幼い人の手で、新しい色を持った愛の世界が築かれることになるでしょう。/
この夢は果たしてかなうでしょうか。
芸術においても人生においても、基本に愛さえあれば、すべてのことは可能なのです。
(/中略)
(後編へ続く)
Marc Chagall “Laid Table with View of Saint-Paul de Vence” (1968) 個人蔵
Written by E.T.
ニースのシャガール美術館へ行ったことあります(^^)/
絵だけじゃなく、ステンドグラスやモザイク、グランドピアノに書いた絵などありました。
絵はあまり詳しくないのですが、青色が主体の絵が好きでした。
オペラ座の天井画は圧巻ですよね(*^^)v
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コメントありがとうございます!行かれたことがあるのですね!
シャガールは、光を創り出し表現することが天性のものだったのではないかなと、コメントを拝見し改めて気づかされました。ステンドグラスもモザイクも元々は、その素材の特性から光を神と見るためのものでしたので。
オペラ座も、本当にまばゆいですよね^^
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シャガール美術館は4年前の年末に行きました(^^)/
今後、ブログにアップ予定です(^.^)
光を神とみるためのもの…、なるほど、そうなんですね。
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