Marc Chagall / サン=ポール=ド=ヴァンスの食卓 × Bellet (後編)

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お酒嫌いの描くワイン

実は、シャガールはお酒(とタバコ)が嫌いでした。

でも、彼の作品には頻繁にワインが登場しています。
紅茶や花が好きだったというなんともエレガントな彼ですが、紅茶は作品には出てきません。

彼はワインを飲み物としてではなく喜びや幸せの象徴で描いたのではないかと思います。

そういう意味ではワインの力はやはりすごい。
文化であり、ストーリーであり、個人の好みなど簡単に超えるものです。

冬の筆

前編で「描かれているのが前妻ベラなのか、その時の妻ヴァヴァなのかはわからない」と書きましたが、今回はやはりベラに着目したいと思います。

彼の人生最大の幸せのひとつは間違いなく最初の妻 ベラであり、彼が注目されるきっかけとなった作品は彼女なしでは生まれなかったものだからです。

実はベラの誕生日はちょうど先週の12月15日。
ことに12月は、シャガールは彼女を思い絵筆をふるっていたでしょう。

この絵が描かれたのが果たしてどの季節なのか確信を得たいところですが、記憶を捉えて描くシャガールのそれを追うのは容易ではありません。必ずしも目の前のものを写し取ったとは限らないからです。

そもそも舞台はサン=ポール=ド=ヴァンス、ニースは冬でも暖かく、四季を感じるものもあまり期待できません。

しかし小さなヒントがテーブルの上の果物にありました。
ここに乗っているオレンジ色の丸いもの、オレンジにしてはずいぶん小さく、みかんのよう。
と思っていたら、”クレマンティーヌ”というみかんが、秋過ぎからこの地域の市場でお目にかかれることがわかりました。
フランスで冬になると出回るものだそうです。
そしてこの黄色い花はミモザでしょう。時期はもう少し後で1月頃からが盛りですが、これも冬に咲く花。

というわけで、これは冬の間に制作されたということにします。

ところで一緒にあるパイのようなものはなんでしょうか。

ニースでよく食べられる料理のひとつに、よく炒めた玉ねぎとアンチョビ、黒オリーブをのせてオーブンで焼くピサラディエールがあります。形状はフラットなピザのようなものからタルトのようなものまでありますが、材料はほぼ変わりません。

ここに描かれているものは生地でフタがしてあるようにも見えてなかなかユニーク、この料理なのか確信はありませんが、隙間から見えている具は玉ねぎに見えなくもないですね。

ワインボトル

今回の作品で面白いのは、シャガールの他の作品に登場するワインと違い、ずいぶんとボトルの特徴を捉えて描いているということです。

おそらく実際に飲むものとして、目の前にあったのでしょう。

描かれたのはたった半世紀前の1968年。ワインは現在とほぼ変わらない姿で出回っているはずですが、こちらは少しずんぐりと見えます。

そしてエチケットは、メインのものとネックに近い部分とで分かれているタイプ。

本当に同じもの見つかるのだろうかと諦めかけ、パリで飲んだものを思い出して描いていたらどうしよう、と思いながらも、地元のワインから見てみることに。

すると、まさかの姿を見つけました。

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左側、Chateau de Crémat というシャトーのボトルです。

少しずんぐりしていて、このシール!さらに調べてみると、このシャトーはもともとバラの栽培をしていたそうで、”Mme Antoine Mari” と呼ばれる新品種まで創り出していました。まさに、シャガールにぴったりのワインではないでしょうか。(現在のボトルでは、上のシールはなくなっています)

さらに、シャガールがこのワインを好きになったかもしれないと想像したくなる、もうひとつのストーリーを見つけました。

Belletご贔屓の、あるMW (Master of Wine)の方のブログの中で「Bellet にはカーネーションの温室がいたるところにあり、ここで生まれたワインにはその香りが典型として現れる」という記述があったのです。

I can still remember the aromas and taste of this wine as memories of hot summers filled the glass: the dried roses and carnations of pot pourri, scenting warm cedar wood drawers, ripe strawberry fruit and hints of autumn plums. I remember the sommelier being very happy with my comments and he added that the scent of flowers was typical of the wines of Bellet, because the vineyards were scattered amongst the glasshouses used for growing carnations.

(参考サイト: https://belletwine.com/ 上記の写真もこちらから。掲載許可をいただきましたのでご紹介!)

Bellet では赤も白もロゼも造られていて、シャガールが赤ワイン以外を描いているのは見たことがないのですが、このボトルのキャップシールを見ると白ワインに見えます。

この作品の英語名は Laid Table with View of Saint-Paul de Vance で、食事の前の光景だと思われます。ボトルはまだ開けられていなそうですので、グラスが赤く見えるのはテーブルクロスでしょう。

Bellet の赤ワインは土着品種とグルナッシュなどの定番品種を数種類アッサンブラージュ(ブレンド)して作られますが、白ワインはヴェルメンティーノというイタリアで多く栽培される品種を主体としていて、やはり特徴の一つに白い花の香りがあります。

大邸宅を構え、メディアからも距離をおかなければプライバシーが守られないような立場になっていたシャガール。自分で買い物をすることはまずなかったと思うので、おそらくハウスキーパーが用意したのでしょう。

花が大好きだったシャガールのこと、その香りにうっとりしていたら良いな、と思います。

さて、「名画のワインリスト」は7月から毎週日曜日16:00更新で続けてまいりました。半年も経っていたなんて今になって驚いています。

ワインと絵画の風変わりな会話を、みなさまが楽しんでいただけていたら嬉しいです。

ここでブログもいったん年末休暇をいただきます。次回は2019年1月13日の予定です。
担当 Frank さんがきっと新年にふさわしい一枚を選んでくださるでしょう!

どうぞ楽しみにお待ちください。

Happy holidays!!

Marc Chagall  “Laid Table with View of Saint-Paul de Vence” (1968) 個人蔵

Written by E.T.

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