名画のワインリスト × ワインの名画リスト(前編)

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2018年7月からの約半年間、14の「名画」を取り上げ、その中に登場する「ワイン(一部、葡萄畑)」について観てきた。作品の年代としても17世紀の偉大な画家 Johannes Vermeer から20世紀に活躍しまだ記憶に新しい Patrick Caulfield や Balthus まで、またワインの生産地としてもフランスを中心にドイツやスペインに至るまで、実に様々な出逢いがあった。

ここら辺りでひと息つこう。Ericoさんには「まだ休憩するのは早い」と怒られてしまうかもしれないが、仕事でも集中力が続かないタイプなので、束の間の休息をお許し頂きたい。

 

「名画」の中に「ワイン」があるように、「ワイン」の中にもまた「名画」がある。

題して「ワインの名画リスト」。今回は2週に亘って、ワインのエチケット(ラベル)について取り上げようと思う。

 

そもそもワインのエチケットとはいつ頃からボトルに貼付されるようになったのだろうか。どうも我々が現在目にしているようなエチケットが普及し始めたのは1800年代に入ってからのようである。1790年代にドイツ人の Alois Senefelder によりリトグラフ(石版画)が発明され鮮明な多色刷りの複写が可能になると、その技法をワインのエチケットにも応用するようになった。例えば、ボルドーでリトグラフの印刷所を経営し、晩年の Francisco de Goya (1746-1828) の作品にも影響を与えた Cyprien Charles Marie Nicolas Gaulon (1777-1858) も、数々の有名シャトーのワインのエチケットを手掛けている。

ワインボトルの歴史については Luis Meléndez の回で取り上げたが、ボトルが現在のような「首」と「胴」の比率になったのも19世紀に入ってから。「胴」の比率が大きくなったのも、もしかしたらエチケットの普及と何か関係性があるのかもしれない。

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「ゴーロン印刷所 ワインのエチケット:メドック サン・ジュリアン (1866)」アキテーヌ博物館

 

さて、ここからはテーマ毎に特徴的なエチケットを観ていこう。

 

ワインの名画リスト × Kyoen

“Kyoen”という言葉には、幾つかの意味が当てられることがある。

共演:主役格の者が2人以上一緒に出演すること
競演:演技を競うこと。また、同じ劇や役を競争で演ずること
饗宴:プラトンの中期対話篇の1つ。主題は恋(エロス)

この3つの “Kyoen” を全て体現しているような、そんなワインがある。アメリカ カリフォルニア州はノース・コースト、ナパ・ヴァレーのオークヴィルに在るOPUS ONE Winery(以下、オーパス・ワン)である。

ワインを少しでも嗜む方であれば名前は聞いたことがあるだろうが、エチケットまで気にしてチェックしたことがある方はそれほど多くはないはずである。

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青い影が何やら蠢いているが、良く観ると非対称の「2つの人面」である。左(西)を向いているのがカリフォルニア・ワインの第一人者である Robert Mondavi、右(東)を向いているのが次章で改めて触れるボルドー「5大シャトー」の1つ Château Mouton-Rothschild を擁するBaron Philippe de Rothschild である。

2人の最初の出逢いは、1970年のハワイであった。Mauna Kea Beach Hotel の一室で、彼らはワインにおける「伝統国」と「新世界」の融合の可能性について話し合った。そして11年後の1981年、新興的なカリフォルニアのテロワールを感じて伝統的なボルドー・スタイルで造ったカベルネ・ソーヴィニヨン主体のワインが発売された。ここに、のちに “OPUS ONE” と名乗ることになるワインの1979年ヴィンテージが誕生した。ある意味、「恋」である。

名前の “OPUS ONE” は、ラテン語の音楽用語で「作品番号1」を意味するが、それには Baron Philippe de Rothschild の「一本のワインは交響曲、一杯のグラスワインはメロディのようなものだ」という想いが込められている。また、オーパス・ワンのセカンド・ワイン “OVERTURE” には「序曲」という意味がある。

Baron Philippe de Rothschild が没して30年、Robert Mondavi が没して10年以上経ったが、今なお2人は “OPUS ONE” の「顔」となって重厚な二重奏を “Kyoen”している。

 

ワインの名画リスト × バレンタイン

時は2月10日、もうすぐバレンタインである。バレンタインと言えばチョコレートだが、敢えてワインをプレゼントするのもアリかもしれない。そもそも「チョコレート」や「カカオ」は主に赤ワインの香りの要素であり、合わないはずがないのである。

そんな時にぴったりなワインが、フランスはボルドー地方メドック地区サン・テステフの Château Calon-Ségur(以下、カロン・セギュール)だろう。ハートが描かれたエチケットは、あまりに有名である。

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「ボルドーワインの格付け」という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、ガロンヌ川とジロンド川の左岸に広がるメドック地区では、1855年のパリ万博から続く、シャトー(ワイナリー)の格付けが存在する。選ばれし61のシャトーが5段階に分けられ、特に優れた Premiers Grands Crus(第1級)を「5大シャトー」と呼ぶことがある。正月に GACKT と YOSHIKI が飲んでいる「最高級ワイン」は、凡そこの5銘柄のいずれかであることが多い。

カロン・セギュールは格付けで言うと Troisièmes Grands Crus(第3級)であるが、人気・実力ともに肩書き以上に高いとされる。と言うのも1855年の制定以来、格付けに変動があったのは、1973年に Deuxièmes Grands Crus(第2級)から Premiers Grands Crus(第1級)に昇格した Château Mouton-Rothschild のたった一例であり、格付けが現時点でのシャトーの実力を反映しているかと言うと、必ずしもそうではないからである。そのため、Deuxièmes Grands Crus(第2級)以下の格付けであるにも関わらず Premiers Grands Crus(第1級)に引けを取らないとされるワインを「スーパー・セカンド」と呼んだりする。カロン・セギュールが Premiers Grands Crus(第1級)に匹敵するワインか、つまり「スパー・セカンド」と呼ぶに相応しいかの議論はさておき、少なくとも Deuxièmes Grands Crus(第2級)に昇格してもおかしくないワインである。

カロン・セギュールでは、ファースト・ワインの Château Calon-Ségur の他に、セカンド・ワインの Le Marquis de Calon Ségur やサード・ワインの Saint Estèphe de Calon Ségur も(日本ではエノテカから Le Petit Calon も)リリースされており、デザインは違えどいずれもエチケットにハートのロゴが付されている。

最後に、カロン・セギュールを語るには、やはりニコラ=アレクサンドル・ド・セギュール侯爵のこの言葉に触れない訳にはいかない。

“Je fais du vin à Lafite et à Latour mais mon cœur est à Calon.”
「ラフィットやラトゥールを造りしも、我が心はカロンにあり。」

「ラフィット」や「ラトゥール」とは、上記の「5大シャトー」のうちの2 銘柄である Château Lafite-Rothschild と Château Latour を指している。18世紀、セギュール侯爵は Château Calon の他にものちに Premiers Grands Crus(第1級)に選ばれることになる Château Lafite-Rothschild や Château Latour 等のシャトーを所有しており、「葡萄園の王子」の異名を持つほどであった。そんな著名な畑を差し置いても、いちばん Château Calon を愛している…と公言するほど、彼は Château Calon に陶酔していた。そして彼の名にちなんで、シャトー名は Château Calon-Ségur に改名された。

エチケットのハートのロゴは、セギュール侯爵のシャトーに対する深い愛情を表しているのかもしれない。

 

《後編に続く》

 

Written by Fumi “Frank” Kimura

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