名画のワインリスト × ワインの名画リスト(後編)

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先週、今週は「ワインの名画リスト」と題して、ワインのエチケット(ラベル)について取り上げている。

ワインをヒトに例えると、まず例えば “OPUS ONE” という名前があって、それは勿論ヒトで言うところの “Fumi “Frank” Kimura” に該当し、カリフォルニア州ナパ・ヴァレー産のワインというのは Frank が栃木県宇都宮市の出身であるということと同義である。OPUS ONE の販売価格は5〜6万円するが、Frank の市場価値も決して安くはない、寧ろ洗練されていると言っても過言ではない(いや、過言である)。OPUS ONE の1986年ヴィンテージは「歳相応」に熟成が進んでいるかもしれないが、Frank はどうも熟成が早いようで既に枯れたニュアンスが出始めている。さてお楽しみの味わい、香りは…それはコルクを開けてみないと分からないが、Frank は複雑性のある香り、濃縮した果実味が感じられ、優しいタンニン、そして永く深く続く余韻…悪くない性格である(いや、実は意外と単純である)。

回りくどいが、要するに何が言いたいのかというと…

エチケットはヒトの「顔」に当たるということである。
Frank は大体ここでふるい落とされる訳だが、特に「名もない」ワインにとってエチケットのスタイリッシュさやシンプルさ(分かりやすさ)は非常に重要である。そうでないと「初対面」でなかなか選ばれるワインにはならない。そこはヒトと一緒。イケメンであることに越したことはないし、勤務先もしくは肩書きというある種の「分かりやすさ」が相手に信頼感や好意を与える。

中身は決して悪くないのに、道理で合コンでモテない訳だ。

 

さて、気を取り直して、先週の続きといこう。

後編にサブ・タイトルを付けるとすると「ワインの名画のワインリスト」。実にややこしい。だが、読み進めて頂ければこのサブ・タイトルの意味もご理解頂けるはずだ。

 

Château Mouton-Rothschildといふワイン

前編で少し取り上げたが、ボルドーワインの格付けの Premiers Grands Crus(第1級)に “Château Mouton-Rothschild(以下、ムートン)” というワインがある。いわゆる「5大シャトー」のひとつである。メドック地区のポイヤックというコミューン(村)に所在し、そのポイヤックは「5大シャトー」のうち3つのシャトーを抱える銘醸地として知られる。

いや、ムートンは Premiers Grands Crus(第1級)に「なった」ワインというのが正しいのかもしれない。1855年の格付け制定時には、ムートンは Deuxièmes Grands Crus(第2級)であった。この決定に納得がいかなかったムートンは、100年以上のロビー活動の結果、1973年についに念願の昇格を果たすことになる。まさに意地と執念である。これがボルドーワインの格付けの160年超の歴史の中で、唯一認められた異動である。

昇格した1973年ヴィンテージのエチケットには、以下の文言が刻まれている。

Premier je suis, second je fus, Mouton ne change.
第1級になれど、かつては第2級なり。されどムートンは変わらず。

昇格はこの上なく嬉しかったことだろう。だが私には、敢えてこの文言をエチケットに記載することで、自身を戒めているように感じる。驕り高ぶることなく、初心を忘れてはならない…と。

 

では、本題に行こう。

ムートンのもうひとつの特徴として、そのエチケット・デザインが挙げられる。ムートンのエチケットは歴代の著名画家が担当してきたことで知られる。1924年ヴィンテージにアール・デコを代表するフランスのグラフィック・デザイナー Jean Carlu (1900-1997) のデザインが採用されたのが始まり。その後20年ほど間が空くが、1945年の第二次世界大戦の終結以降は毎年エチケット・デザインが変更されている。これは歴史のあるワイナリーでは珍しいことだが、誰をも魅了するムートンだからこそ成し得る業なのであろう。

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1924年ヴィンテージの Jean Carlu のデザイン。Rothschild 一族の紋章「5本の矢」にムートンを表す「羊」、そしてシャトーが描かれている

 

以下では、70以上あるヴィンテージのエチケット・デザインの中から、4点ほど作品をピックアップして紹介させて頂く。

 

ワインの名画のワインリスト × Georges Braque

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Georges Braque (1882-1963)(以下、ブラック)はフランスの画家であり、Pablo Picasso (1881-1973) と並んでキュビスムの創始者として知られる。ブラックが担当したのは1955年ヴィンテージである。

ブラックがキュビスム的な絵画を描いたのは1908年頃から第一次世界大戦が終わる頃にかけての約10年弱なので、1955年ヴィンテージのエチケットに描かれた絵には、キュビスムの面影はまるでない。ただ「ブドウ」というモティーフは、「バイオリン」とともにキュビスムの時代に好んで描いた題材なので、ある意味「ブラックらしさ」は出ているのかもしれない。

エチケットと同じサイズで描かれた、素朴な赤ワインとひと房のブドウの絵。その朴訥な筆致には、巨匠と呼ぶに相応しい力強さがある。

 

ワインの名画のワインリスト × Henry Moore

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Henry Spencer Moore (1898-1986)(以下、ムーア)は20世紀のイギリスを代表する彫刻家である。ムーアは1964年ヴィンテージのエチケット・デザインを手掛けている。

ムーアの彫刻は「母と子」「横たわる像」「内なる形と外なる形」という3つのモティーフから成る。一作品がそれぞれのテーマを持つこともあるし、複数のテーマを併せ持つこともある。

そのような視点で本作を見てみよう。優しく両手に包み込まれた3杯のワイングラス。大切そうに守っているような、そんな印象を覚える。ムーアは「母と子」というモティーフの中で、豊かな母性に溢れた彫刻を数多く残した。小さな形と、それを保護している大きな形の関係。どこか「母性」を感じさせるような、温かみのあるムーアのデザインである。

 

ワインの名画のワインリスト × Francis Bacon

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Francis Bacon (1909-1992)(以下、ベーコン)はアイルランド ダブリン生まれの画家である。ベーコンが担当したのは1990年ヴィンテージであるから、もう晩年の作品である。

ベーコンは「キリスト磔刑図のための3つの習作 (1944)」に代表されるような、奇妙な、でもどこか悲哀に満ちた作品を描いたが、本作も例に漏れず独特の世界観を醸成している。

赤ワインが満ちたグラスを取り囲む肉片のようなもの。三半規管の一部のようにも、筋肉質な肢体のようにも見えるその作品からは、静的なエネルギーが感じられる。静的ではあるものの「負」を纏っている訳ではない。背景の暗闇はどこか宇宙的な広がりを感じさせ、「肉片」の存在を一層際立たせている。

ベーコンはワインの愛飲家であったことで知られる。ロンドン ソーホーの酒場コロニー・ルームを毎晩訪れては、気の許す仲間と他愛のない話で盛り上がっていたことだろう。

 

ワインの名画のワインリスト × SETSUKO

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愛読して頂いている方にとってはどこかで聞いた名前であろう。SETSUKO (1942- ) はそう、前回 Erico さんに紹介頂いた Balthus の妻、節子夫人である。節子夫人が担当されたのは1991年ヴィンテージ。実は Balthus も1993年ヴィンテージのエチケット・デザインを担当しており、夫婦揃って登場するのは彼ら以外にはいない。

露草色の花瓶に差された7輪の花。赤みを帯びた黄、紺、桃色の花々は、裏庭に咲いていたチューリップだろうか。隣にはオレンジ色の実のシロップ漬け。瓶にぎっしり詰められた丸々とした実は、最近漬けられたばかりなのであろう。そして大きなリボンのついたバスケットと赤ワインの注がれたデキャンタが、籐(ラタン)の家具の上に載せられている。額代わりに周りを囲む一連の竹が、観る者をまた一歩和の世界へと誘う。

節子夫人は当時、スイスのグラン・シャレ(大きな山小屋)に住んでおり、恐らくはその一角を描いたものなのだろう。着物好きの Balthus と節子夫人のことである。スイスにありながらも、和のテイストを何処と無く散りばめた、そんな住まいだったことだろう。

 

さぁ「ワインの名画のワインリスト」の意味を理解して頂けただろう。いずれのエチケット・デザインにもワインが描かれているのである。

4点ほどエチケットを紹介させて頂いたが、画中のワインは…
いずれも Château Mouton-Rothschild をイメージしていることは改めて言うまでもない。

 

Written by Fumi “Frank” Kimura

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