Pierre-Auguste Renoir/ 昼食× Beaujolais (前編)

ルノワールの素朴な優美

どこか寛ぎを覚える作品、”The Luncheon” 。
わざと設えられた感じもなく、それでいてバランスが良く、鑑者もこの部屋にいるようなリラックスした感覚になります。

画家はピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir/1841-1919)。誰もが印象派として知る画家の一人です。

多くがブルジョワ階級出身の印象派の中で、彼は両親ともに働く労働者階級出身で、自身ももとは陶器の絵付け職人でした。生まれこそリモージュですが、その人生のほとんどをパリで過ごしています。

「楽しくなければ絵などやらない」「美しいものしか描かない」という彼の言葉の端に見えるように、美しいもの、愉しいものへの愛情や憧れを、筆を通して映しとっていこうとしました。
優美というには人間の生活感や雑多感がありますが、彼の作品群全体に漂う色彩や優しさは彼を彼たらしめているものでしょう。

それは決して楽観的だったからではなくむしろその逆で、彼が「人生は厭なことが多すぎる」と痛みを持病のように携えていた反動から生まれたもの。
軽やかに、歌うように、(実際画家は美声の持ち主だった)
ルノワールにとって仕事は人生を癒してゆく行為であったのではないかと思うのです。

ところで先日、ふと目にした印象派の入門書になんとタイプ診断チャートが付いており、設問に答えていくとErico はルノワールに行き当たりました。単純なので、実はあまりじっくり見てこなかった彼の作品を改めて追ってみたくなり、今回取り上げるに至りました。
(日本で展覧会が催されているでもなく、いたって個人的なタイミングであることをお許しください)

同じく印象派のバジールが描いたルノワール。なんだか可愛い。

昼食

ルノワールは、いくつかの「昼食」と名づく作品をつくっています。
一番有名で評価も高いのが「舟遊びの人々の昼食/Le déjeuner des canotiers」 (1876).

「舟漕ぎたちの昼食/Déjeuner au bord de la rivière (Les Canotiers)」(1875)
今回取り上げた「昼食」の男性の方のモデルは、こちらに出てくる左側の男と同じだと言われています。

風俗画

今回の作品に戻ります。温かそうな、ふんわりした服装の男女。
自宅なのかレストランなのか判然としませんが、バゲットがそのままテーブルに乗っかっていることや、帽子がラフに椅子にかけてあるところを見ると自宅のダイニングのような気がします。なんとなく二人とも、座り方がくつろいでいるようにも見えませんか。
壁が右端で切れていること、そして影の具合からテーブルの正面は窓なのでしょう。

男性はワイングラスに手を添え、女性は右手にのみカトラリーを持っていることからおそらく、パンにバターをつけているところ。
(それだけでこの上ない幸せを感じます)

先に、「わざと設えられた感じがしない」と書きましたが、この作品は当時、文学で起こっていた「自然主義」的だと評論されました。ルノワールもドイツの音楽家ワーグナーを描いていたり、文学と絵画、音楽が、ゆるやかに繋がっていた時代です。
さて、自然主義=ありのままを捉えて美化しない、ということですが、だからと言って凄惨なものや社会の陰ばかりを描くというわけではありません。

当時発行されたエミール・ゾラの著作(Erico私物)
自然主義文学はゾラによって定義された学説の下、19世紀末、フランスを中心に起こった文学運動。自然の事実を観察し、「真実」を描くために、あらゆる美化を否定する。(Wikipedia). ちなみにゾラはセザンヌの幼馴染。

ことにルノワールは、美化せずともありのままで美しい瞬間を捉える力、それを残す力を使ったのでしょう。
モデルにも、「とにかくいつものままでいてくれ」と頼んでいたという画家は、自然の状態が一番愛すべき美しさだと、知っているとも気づかないほど「自然に」悟っていたのだろうと思います。

一方で、インテリアや服装、パンやグラスを通して生活をそのまま描くことでこの時代の「風俗」をあらわすという試みでもあったようです。
ルーブルにも足繁く通っていた彼は、古典作品を多く見、また影響も受けていました。古典的な風俗画、たとえば日常生活が多く描かれた17世紀オランダ絵画などと時代が変わった、現代の姿を映しとること。
日常的なシーンを描いた人物画、そして室内画も多いルノワールだからこそできたことでしょう。

ピーテル・デ・ホーホ「裏庭での集い」1663頃/部分 この時代オランダでは日常生活のはしはしが多く描かれたが、どこか物語性を感じる。今回見ている作品が、いかに「自然」かがわかる。

さて、今年はルノワールの没後100周年ですが、明日2月25日は彼の誕生日です。
ささやかなお祝いを口実に、一杯のワインとバゲットとともにランチョンとまいりましょう。

Pierre-Auguste Renoir “ Le Déjeuner” (1875-79頃) バーンズコレクション
Written by E.T.

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