John Singer Sargent/ベニスのタバーン×Soave(後編)

ヴェネチアに飲むは

さて、人々が軽食をとるタバーン。飲まれているのはどんなワインでしょうか。

ボトルは藁で覆われているためワインの色は見えません。光の感じから、明るい色か透明のボトルのようです。 奥の男性が飲んでいるのは白ワインのため、ここでは白ワインということにします。 軽食で摂るものだったら地元の料理でしょうから、白ワインの方が合うものも多いのではないかとも推測します。


イタリアはヴェネチア。 ヴェネチアはイタリア北部、ヴェネト州に属する地域で、 1866年にイタリアの一部となった水の都。

ヴェネト州で有名なワインといえば、ソアヴェやヴァルポリチェッラ、バルドリーノなどが浮かびます。
中でも白ワインのソアヴェは、古代ローマ時代から品質の良さとおいしさで定評がありました。 中世になってもその評判は変わらずだったというので、何百年という歴史の長さに耐えるワインの存在には驚かされます。ガルガネガ、というあまり聞きなれないぶどう品種をメインにして作られる、フレッシュなワインです。

こちらはSoave Classico. 「クラシコ」と名付くのは、古くから生産を行なっていた地域です。フレッシュでミネラリー、柔らかい酸味、小花や花梨のような香りも豊かに感じます。

ということで、今回の答えはストレートにソアヴェ。ですが、少々補足を。

実は同じヴェネト州とは言っても、現在の区分けでは、ヴェネチアとソアヴェは別の地域に分かれてしまいます。 ヴェネチアがあるのは東部で、ソアヴェが生産されるのはヴェローナ(ロミオとジュリエットで有名!)という西部の地域で、ここまで離れずともヴェネチアに近いワインの生産地は他にもたくさんあります。

しかし、このワインの歴史の長さを鑑みても生産地のごく近くのエリアだけで飲まれるようなものではないこと、さらに、両エリアとも1866年にイタリアに属する前は、オーストリアに支配を受けていてまとまっていたこと、

そして実際のところヴェネチアでは地元の料理に合わせてソアヴェがたくさん飲まれていることから、ここでも素直に従うことにします。

Fiasco

 “フィアスコ”と呼ばれるこの丸いボトルを見て、ワイン好きがまず思い浮かべるのは、トスカーナ州のキャンティですよね。

14~15世紀ごろ、このガラスボトルの生産を多く行っていたのがトスカーナのValdelsaというところでした。 小さなコミューンでしたが、このボトルはトスカーナ以外にも広く渡っていました。 側面も丸いまま、底も必要以上に平らにしないボトルは、吹きガラスで最低限の加工で作ることができます。そこに藁のカバーを重ねることで、運搬時のボトルの保護と、テーブルに立てるための台を兼ねることができました。

瓶を藁や植物で巻いて保護するやり方は昔から使われており、トスカーナの藁の巻き方が縦方向であるのに対し、他では横であることもありました。
さらに元々はボトルの首元まで覆われるのが普通でした。

現存する、昔からのボトルを描いたスケッチ

肩までが出るこの独特な形になったのには理由があります。

もともと、中身のワインの”名札”というべき、今でいうエチケットのような印はこの藁の部分に貼られていました。 つまり、ワインの入ったボトル自体にはなんのサインもなかったのです。


このため、外側を外して全く違うワインにつけ替えてもわかりません。 名称偽造されたワインが出回るようになってしまい、その対策として1618年の勅令によりボトル自体にスタンプをするようになります。(違反者は厳罰が待っていたそうです)

首元までカバーされていてはそのスタンプが見えないため、肩の部分までを出して下の部分のみを覆うようになりました。

今では、ボトルは機械で作れるし、運ぶのには良い緩衝材があるし、そもそもこの形状では大量の運搬が難しく、国際市場で戦うのに大変不利なため、お土産ものとしての価値以外にはこの形である意味はあまりありません。 イタリア国内でも、急速にフィアスコを見かけることはなくなっていきました。


さらに、1965年以降、このボトルの形状に詰めることが許されるのは、原産地呼称D.O.C.以上のワインのみとなりました。 このような歴史の変遷でフィアスコボトルは使われなくなっていきますが、生まれ元のトスカーナ地方にだけは文化遺産のような扱いで残ったため、今ではこのボトルで見かけるのは、ほぼキャンティというわけです。

サージェント

画家・サージェントは、イタリアでこそこのような一般市民や街の様子、生活のありのままのシーンをスケッチするように描いていましたが、前回も書いたように、優雅な対象を描いてこその彼のキャラクター。

せっかくなので最後に、サージェントの最も有名な作品のひとつで、私も大好きな一枚をご紹介してこの回を終わりたいと思います。

ロンドンはTATEギャラリーでの展示の様子、
「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」です。

厳めしいラオコーンの向こうに、優しげな姿が見えてきました…
Carnation, Lily, Lily, Rose / 1885-6
(奇しくもこの写真を撮ったのは、7年前の今日3月31日でした)

John Singer Sargent / “Venetian Tavern” (1902) ヴァージニア美術館
Written by E.T.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

WordPress.com.

ページ先頭へ ↑

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。