Henri Fantin-Latour / テーブルの片隅で × Pommard (前編)

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バラの街を作ったシダネルの作品と、ワインの香りにまでバラを感じることができる、優雅な回となった先週。5月の今、現実世界もバラが真っ盛りです。

せっかくですので、読者のみなさまにはもうしばらく花の季節を楽しんでいただこうと思います。前回はお庭でしたので、今度は室内の作品を。

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ただ飲み終わったグラスが置いてあるだけなのに・・ 花とワインってなぜこんなに相性がいいのだろう

19世紀の「花の画家」をご存知でしょうか。
アンリ=ファンタン=ラトゥール (Henri Jean Théodore Fantin-Latour/1836 – 1904)はフランス生まれ、写実主義で静物画と集団肖像画を多く残した画家です。
「花の画家」と言われる所以は、Googleの検索結果を見れば一目瞭然。圧巻です。

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「アンリ・ファンタン・ラトゥール」 画像検索結果

印象派が台頭してきた時代において、写実主義でサロンに出品し続けた「正統派」の画家ですが、印象派を知る上で必ず触れることになる人物でもあるのです。
というのも、彼の残した「集団肖像画」と呼ばれる今回のような作品、その一枚がこちら。

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Studio in the Batignolles / 1870

画家の名前はピンとこなくても、この作品は見覚えがないでしょうか。ここにはマネを中心に、ルノワール、モネ、バジールなど印象派の画家が勢ぞろいしていて、同派の説明にはよく引用されています。
この絵に限らず、いえ、絵だけでなく現代の写真でも、よほど写し取る側が有名でない限り、制作側の存在感が薄くなるのは人物作品の運命です。

肖像画の類は徐々にフランスで評価を得ていきます。ところが、今では彼の代名詞 花の作品群は、フランスよりもお隣のイギリスでまず大好評を博します。
さすがガーデニングの国、バラの国。

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赤バラはイギリスの国花でもある

ちなみに英国で成功するきっかけとなったのは、作品に音楽用語を多用したことで独自の世界観をもつ、ホイッスラーでした。アメリカからヨーロッパに渡り英国で活躍した彼が、ラトゥールを同国に紹介したのです。

彼の作品を見ると、どこかラトゥールにも通じる静謐さを感じます。

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James Abbott McNeill Whistler 青と金のノクターン-オールド・バターシー・ブリッジ/ 1872-75

 

今回の作品に戻りましょう。
これだけ人物が配置されてそれぞれに動きがあるのに、その印象は静かでエレガント、まるで静物画のようです。

書かれている人物はフランスの作家や詩人たち。
夕食後のテーブルには、食べ物とともに汲みされたであろうワイン、食後酒なのか、リキュールかウィスキー、そしてコーヒーと果物。

左上と右下の花々がまるで額のように彼らをゆるく囲い、二枚の画中画が全体を控えめに引き締めます。(黒い額縁の方は帆船が描かれているのがわかります)
全体にやわらかなトーンで整えられ、グレーと黒に身を包んだ人物たちと好対照に、果物や花々、そしてワインが点々と画面に彩りを添えています。

詩人や作家と政治家が、19世紀末のフランスで何を議論していたのか・・意見がぶつかっているというのでもなさそうですが、楽しそうとはいきません。一応ディナー後の風景ということになっているのですが、皆きっちり品位を保っていて、お腹いっぱいでくつろいでいるのではないのは確かです。
集団肖像画とはいえ自然なシチュエーションが描かれているのですから、もう少し緩んだ空気感でも良さそうなものですが。
そんな中画面を優しげでフレンドリーにしてくれているのは、登場する小さな静物たちの絶大な効果でしょう。

 

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とびきりしかめつらのこの方、当たり前ですがそっくりです… Paul Verlaine というフランスの詩人

察するにラトゥールは、以前取り上げたルノワールの「自然のままの美しさ」とはある部分正反対の、品位に美を見出していたのかもしれません。
想像を進めると、彼はありのままの結果としての美しさではなく、理想の美に現実を合わせていくようなアプローチで生きていたのかも。

単純にサロンでの評価のために技術力で理想の状態を描いたのだとしたら、この花々はこんなに愛らしく描かれなかったのではないかなと思います。

人物がメインの作品ではありますが、彼はきっとこの花々を描くことにこそ、大きな喜びをもって取り組んでいたのではないかと想像してしまうのです。

 

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彼にちなんで「ファンタン・ラトゥール」と名付けられたバラがあります。色は薄ピンク、中心がくしゅくしゅっとしたカップ咲きのオールド・ローズで、豊かなダマスクの香りがします。まるで素朴な少女のよう

 

 

Henri Fantin-Latour / “ Un coin de table” (1872) オルセー美術館
Written by E.T.

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