Edward Hopper / 女性たちのためのテーブル × [シャルドネ](前編)

スクリーンショット 2019-07-27 11.59.18.png

純白のエプロンを身に纏ったウエイトレスが、窓際にディスプレイ用のフルーツを盛り付けている。黒い服を着た女性はレジを打ち、店の奥では男女がワインを飲みながら会話を楽しんでいる。

何の変哲も無い、日常に溢れた風景…

…のように見える。

 

“Tables for Ladies” というタイトルが付けられた本作品は、アメリカを代表するソーシャル・リアリズムの画家 Edward Hopper (1882-1967)(以下、ホッパー)によって1930年に描かれた。

直訳すると「女性たちのためのテーブル」。

ホッパーの他の作品を見ると “New York Restaurant”(実際、存在する)とか “Restaurant at Night” とか、そのような名前を付けそうなものだが、敢えての “Tables for Ladies”…

題名からして、何か深い意味がありそうだ。

 

まずは、ホッパーという画家について紹介したい。ホッパーはニューヨーク州ナイアックで生まれ、生涯の大部分をアメリカで過ごした。特に31歳から息を引き取るまでの50年強の間、マンハッタン島の南西側グリニッジ・ヴィレッジで制作を続けた。土地勘がある方にはご理解頂けると思うが、ニューヨーク大学とかジャズの聖地 Blue Note とかがある、あのエリアである。

スクリーンショット 2019-07-28 15.40.39.png
3 Washington Square North はホッパーが生涯のスタジオを構えていた場所である

 

ホッパーは、ありのままのニューヨークを描いた。彼の代表作 “Nighthawks (1942)” には、その名の通り深夜の食堂で「夜更かしする人々」が描かれている。夜食にサンドウィッチを食べている女性と葉巻を吸う男性。カウンターの中には、キャップを被ったブロンドの青年が腰を屈めている。手前の男性の背中からは、どこか哀愁が漂う。

屋根には“Only 5¢ PHILLIES American No.1 Cigar” の文字が読めるが、恐らく男性が吸っている葉巻もこの PHILLIES 社製のものであろう。PHILLIES はチョコレートやシナモン、ハニーといったフレーヴァード・シガー(加香タバコ)で有名であるから、「夜更かし」しているにも関わらずビールではなくコーヒー?を飲んでいることにも、何となく合点がいく。

Nighthawks_by_Edward_Hopper_1942.jpg
“Nighthawks” (1942) シカゴ美術館所蔵

 

その他、彼の作品のモティーフは、オフィスやホテルのロビー、映画館、ガススタンド、灯台…といった、ありふれた身近なテーマであった。

彼は芸術家としては珍しく生前から評価され、ホイットニー美術館やメトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館 (MoMA) といったニューヨークの名だたる美術館に作品を買い上げられた。特に1933年、ホッパーが51歳の時に MoMA によって開催された “Edward Hopper: Retrospective Exhibition / 大回顧展” は彼の初の大規模な個展であり、彼の名は一気に全米に広がることとなった。

スクリーンショット 2019-07-28 15.57.06.png
1933年にMoMAにおいて開催された回顧展のカタログ。油絵や水彩画の他、ホッパーが初期に取り組んでいたエッチングも出展された。なお、本作も出展された記録が残っている (Source: MoMA)

 

さて、本作が描かれたのは1930年。世界大恐慌の引き金とされるウォール街の大暴落が起こった翌年である。また「女性」の社会的地位が大きく向上したのも1920年代のことである。女性の参政権保護・拡大を謳ったアメリカ合衆国憲法修正第19条が批准されたのも1920年のことであるし、“Roaring Twenties / 狂騒の20年代” の名に相応しく、大きな社会イノベーションの潮流が生じた時代であった。

ここで “Tables for Ladies / 女性たちのためのテーブル” というタイトル。

そこには様々な想いが込められていた。白いエプロンの女性は「労働者としての女性の社会進出」を、黒い服を着たキャッシャーは「資本家としての女性の躍進」を、そしてタイトルには「それまで女性一人で外で食事をすることもはばかられた社会に対する諷刺」をこの作品で訴えようとした。

 

ソーシャル・リアリズムの画家として、ニューヨークという大都市の「孤独」と「光」を表現しようとしたホッパー。

後編ではその絵に描かれた、そしてホッパーらしく社会を皮肉った「ワイン」について妄想しようと思う。

 

《後編に続く》

 

Edward Hopper “Tables for Ladies” (1930) メトロポリタン美術館所蔵

Written by Fumi “Frank” Kimura

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

WordPress.com.

ページ先頭へ ↑

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。