Joan Miró / タラゴナのブドウ畑とオリーブの樹 × マカベオ(前編)

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抽象の中の具象。具象の中の抽象。

写実的であるようで、キュビスムも顔を出す。「具象と抽象のあいだ」を行き来した、そんな Joan Miró (1893-1983)(以下、ミロ)の初期の作品である。

ミロというとシュルレアリスムの画家としての認知度がより高いように感じるが、実際のところ、1923年以降、すなわち30歳台に入って徐々に現れ始めた傾向であり、当時の芸術運動の潮流に乗った動きと考えられる(フランスの詩人 André Breton が “Manifeste du Surréalisme / シュルレアリスム宣言” を出版したのも1924年のことである)。

 

筆者自身が「ミロ」と最初に出会ったのは、確か小学校の廊下に飾ってあった複製画である。どの絵だったかは朧であるが、間違いなくシュルレアリスム絵画であったから、幼い頃から「ミロ=シュルレアリスムの画家」という等式は、まるで疑う余地のない均整のとれたものであった。「ミロ」の近くには Paul Klee (1879-1940)(こちらは確か “Senecio / セネシオ (1922)” だった)も飾ってあった記憶があるから…そういう意味では児童の想像を自由に掻き立てようとする、素敵な小学校であったということだろう。

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ミロと言えば例えばこんなイメージ。“Le Sourire des Ailes Flamboyantes / 眩い両翼のスマイル (1953)” ソフィア王妃芸術センター所蔵

 

「ミロ=シュルレアリスムの画家」という等式が瞬く間に崩れ去ったのが、いつか “The Farm / 農園 (1921-22)” と出逢った時のことである。一見すると、Salvador Dalí (1904-89) や René Magritte (1898-1967) と同じ類の絵画なのかと思いきや、全くと言っていいほど異なる(よくよく考えてみれば時代もズレているのだが)。

そこに描かれた鶏、鹿、ウサギ、トカゲ、如雨露。いずれも緻密…とまでは言えないまでも、写実的なのである。かと言って纏まりはなく、あくまでアンストラクチャー。その混沌とした不安定さが、観る者を絵画の中に引き込む。地面の描き方などを見ているとキュビスムのようなニュアンスがあり、画家の捉えた視点について考えると「セザンヌ」的(Georges Braque 前編参照)でもある。

そう、これがミロの真髄であり、ミロのミロたる所以である。いっそのこと、「ミロ派」という新しい学派を作りたいくらいだ。

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“The Farm / 農園” (1921-22) ナショナル・ギャラリー・オブ・アート所蔵

 

ちなみに、1923-24年にかけて描かれた “The Tilled Field / 耕地” は、ミロ 曰く“The Farm / 農園” の「発展形」らしい。確かに登場人物(生物?)は似ているし、紙の端きれのようなもの(“L’INTR” はL’Intransigeant 紙、“JOUR” は Le Jour 紙という実際に刊行されていた新聞紙を表しているのではないか)にも共通性がある。中心に「樹」が配置されているが、下掲の “The Tilled Field / 耕地” からは目と耳(まつ毛も?)が生えている。

たった1-2年の差でシュルレアリスムが一気に色濃くなったが、ミロのシュルレアリスムのイメージが前出の “Le Sourire des Ailes Flamboyantes / 眩い両翼のスマイル (1953)” であるとすれば、この「発展形」もまた、進化の途中の「一里塚」にすぎない。

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“The Tilled Field / 耕地” (1923-24) ソロモン・R・グッゲンハイム美術館所蔵

 

さて、シュルレアリスムに移行する直前に描かれた今回の作品。

手前に広がるブドウ畑は、1枚1枚丁寧に葉が描かれ(忠実かどうかはさて置き)、ラズベリーのような大きさではあるがブドウの実もなっている。最前列のブドウの樹は深く根を張り、虚構を織り交ぜながらも大地のパワーを精一杯表現しようとしている。

中程にはキュビスムから着想を得たであろう畑、一方で遠影の山々はどこか水墨画のよう。写実性という意味では遠方が最も繊細に描かれ、次いで目下のブドウ畑、それら2つで中程のキュビスムを包み込むような構図となっている。あまりこのような構図は見かけないが、アクセントと安心感が入り混じり、寧ろバランスのとれた作品と仕上がっているように感じるのは私だけだろうか。

 

おっと、つい夢中になってここまで書き進めてきたが…

申し訳ない、お察しの通り「ワイン」ではなく「ブドウ畑」である。ご愛嬌ということで。後編では、その品種について考えていこうと思う。

 

《後編に続く》

Joan Miró “Vines and Olive Trees, Tarragona” (1919) メトロポリタン美術館所蔵

Written by Fumi “Frank” Kimura

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