Joan Miró / タラゴナのブドウ畑とオリーブの樹 × マカベオ(後編)

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先週に引き続き、Joan Miró (1893-1983)(以下、ミロ)の “Vines and Olive Trees, Tarragona / タラゴナのブドウ畑とオリーブの樹” である。後編では畑に植えられたブドウの品種について考えて行こう。

 

その前に、ミロの生涯をほんの少しだけ。ミロはスペインのバルセロナで生まれ育ち、成人した後、地元の企業に就職した。転機が訪れたのは1911年、ミロが18歳の時。病気の療養のため、ミロは父親が所有していたモンロッチの畑を訪れた。モンロッチはバルセロナと同じカタルーニャ州に属するも、その距離は130kmほど離れた片田舎である。わずか数ヶ月の滞在ではあったが、ミロはモンロッチの「大地の力」に魅了された。

何かに取り憑かれたようにミロは画家になることを決意し、一度就職した会社を辞め、美術学校に入学するためバルセロナに戻った。当初ミロはフォービスム(野獣派)の影響を大いに受けた作風であったが、1918年、25歳の時に開催した初の個展が失敗に終わったことを契機に、本作のような独特の「ミロ・スタイル」を確立していったのである。

勿論、感銘を受けたモンロッチをモティーフにして。

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フォービスムの影響を受けたミロの初期の作品。原色を多用した大胆な筆致は、当時のカタルーニャの人々には受け入れ難かったようだ。“Prades, the Village / プラードの村” (1917) ソロモン・R・グッゲンハイム美術館所蔵

 

さて、本作。題名に “Tarragona / タラゴナ” とあるが、モンロッチが所在する県を指す。それはすなわち「モンロッチの風景」ということになる。また、土地の名前が絵に付されていることで「写実」の蓋然性が格段に上がる。つまり、画法はともあれ「風景画」ということになる。

 

ということで、今回はスペインのワイン(ブドウ)である。本ブログを愛読して頂いている方は記憶に残っているかもしれないが、スペインを舞台とした絵はちょうど1年ほど前に登場した静物画家 Luis Egidio Meléndez (1716-1780) 以来2度目…ということになる。しかも同作では、シェリー・ワイン(酒精強化ワイン)との結論であったから、スティル・ワインとしては初めて…である。

年に1回ペースだと、もしかするとこれがスペイン・ワインの最終回となる可能性も捨てきれないので、ざっと全体観について観ていこう。

 

スペイン・ワインの歴史は深い。そもそもブドウが伝播したのは紀元前1,100年頃と言われており、紀元前200年頃には移り住んだローマ人たちによってワイン造りが盛んになっていたというから驚きである。

スペインには50の県があり、それが17の自治州に分類されている。気候も地形も土壌も実に様々なため、土着品種や国際品種を含め、ワインも無数の顔を持つ。全て説明するにはアレなので、皆さんが楽しいワイン・ライフを楽しむための5つのポイントに絞って、ご紹介させて頂くことにする。いや、5つでは足りないので6つでお願いしたい。

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(1)スペインを代表する泡
Cava / カヴァというスパークリング・ワインを店頭で見かけたことがあるだろう。スペイン・バルには確実にあるし、それに限らず高級レストランを除く多くの店のグラス・ワインとしてオン・リストされていることだろう。それもそのはず、コスパが非常に良いからである。フランスの Champagne / シャンパーニュ、イタリアの Prosecco / プロセッコと並んで「世界3大スパークリング・ワイン」に数えられるが、Champagne より安価であるにも関わらず製法はほぼ同じ(瓶内2次発酵、熟成期間も Reserva / レゼルヴァ以上で匹敵)なのである。レストラン運営の視点からすれば「乾杯」には外せない泡である。カヴァを構成する主要品種はマカベオ、チャレッロ、バレリャーダの3つ。いずれも白ブドウである。その殆どがカタルーニャ州の Sant Sadurní d’Anoia / サン・サドゥルニ・デ・ノヤで造られる。

(2)ワイン・ラヴァーが愛する「てんぷら」
ワイン好きが「てんぷら」と言う場合、揚げ物の「天麩羅」ではないケースが往々にしてある。その場合「Tempranillo / テンプラニーリョ」と言う品種を指していることが多い。同品種はスペインで最も生産されている黒ブドウであり、生産エリアによって複数のシノニム(異名)を持つ。センシベル、ティント・フィノ、ティンタ・デ・トロ…といった感じである。スペイン・ワインで最高峰とされる Rioja / リオハや Ribera del Duero / リベラ・デル・ドゥエロでも同品種が使われ、スペイン・ワインにとってなくてはならない偉大なブドウである。熟成がある程度進んだ「てんぷら」からはタバコの香りが感じられ、それがテイスティングの見極めのポイントともなる。ちなみに、2つの「てんぷら」を食事で合わせることはオススメしない。念のため。

(3)ガルナッチャだっちゃ
フランス・ワインでグルナッシュという品種を聞いたことがあるだろうか。Côtes du Rhône / コート・デュ・ローヌ地方の特に南部地区でメジャーな黒ブドウである。そのグルナッシュ、フランス語表記では “Grenache” と書くが、元々はスペインの “Garnacha / ガルナッチャ” が原産である。大衆的なブドウ品種とされていたガルナッチャの評価が急激に上がったのは、1990年近くなってから。Álvaro Palacios / アルバロ・パラシオスら著名な造り手たち(俗に「プリオラートの4人組」と言われる)がカタルーニャ州の Priorato / プリオラートのテロワールに着目し、ワイン造りを始めてからである。今や同造り手のフラッグシップ・ワイン L’Ermita / レルミタは10万円以上で取引されるなど、ガルナッチャは世界のワイン市場で不動の地位を築いている。

(4)「牡蠣にはシャブリ」と言っている人は時代遅れ?!
時は遡り、バブルの時代。日本では殆ど「白ワイン= Chablis / シャブリ」と言っても過言ではなかった。今でもその名残は消えず、Chablis にとって日本というマーケットは非常に重要なポジションをキープし続けている。他方、グローバルなマーケットで見ると、最近のトレンドは少し異なる。Chablis 以上に、スペインはガリシア州の Rías Baixas / リアス・バイシャスの Albariño / アルバリーニョを推す声が大きくなっている。そもそも Rías Baixas の “Rías” には「入り江」の意味があり、日本の三陸海岸に見られる「リアス式海岸」の語源はこの Rías Baixas とされる。という訳で海沿い、とりわけ大西洋側の産地である。海風を受けて育ったブドウからはミネラル香が感じられ、魚介系の料理との相性が抜群に良い。それが Albariño が「海のワイン」と呼ばれる所以である。今夜から「牡蠣にはアルバリーニョ」でいこう。

(5)世界を魅了する美食の街サン・セバスチャンと言えば…
ガストロノミーの街 San Sebastián / サン・セバスチャン。食通であれば誰もが憧れる「夢の国」である。2019年の「世界のベストレストラン50 (Restaurant)」のトップ10にも San Sebastián 周辺のレストランが2軒含まれ、その実力は証明済みである。San Sebastián が所在するバスク地方で伝統的に造られているワインが Chacolí / チャコリである。バスク語表記では “Txakolin” と書かれるため、そちらでエチケットに記載されていることもある。Hondarrabi Zuri / オンダラビ・スリという土着の白ブドウで造られた Chacolí と San Sebastián のピンチョスを合わせたら、それはもう…幸せである。エスカンシアールというバスク地方独特の注ぎ方でぜひ!

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エスカンシアールでワインを注ぐ男性。元々はシードラ(=シードル)を注ぐ手法であった。

(6)世界3大酒精強化ワインのひとつ
ポルトガルの Porto / ポート、Madeira / マデイラと共に世界3大酒精強化ワインの一つに数えられている Sherry / シェリーも忘れてはいけない。詳しくは「Luis Meléndez / 無花果とパンのある静物 × パロミノ(後編)」で深掘りしているので、そちらを参考にされたい。

 

これであなたもスペイン・ワイン通…になったところで、本作のブドウについて考えてみよう。畑に植えられているブドウは、モンロッチでメジャーであった品種と考えて問題ないだろう。モンロッチは上記(3)で紹介した Priorato のすぐそばに位置し、D.O. Tarragona に内包される。Priorato の場合は、記載の通り、Garnacha や Cariñena / カリニェナといった黒ブドウで赤ワインが造られることが多いが、モンサン山脈を挟んだ Tarragona では Macabeo / マカベオを中心とした白ブドウで白ワインが造られている。

よくよく絵画を見てみると、ブドウの果実が黒いのでは?というご指摘もあろうが、そこはミロ特有の「具象と抽象のあいだ」の作品である。そもそも果実が実っていたかどうかも不明。ということで、間違いを恐れず、今回は白ブドウの Macabeo ということにさせて頂く。

 

Joan Miró “Vines and Olive Trees, Tarragona” (1919) メトロポリタン美術館所蔵

Written by Fumi “Frank” Kimura

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