Paul Klee/ カラフルな食事 × Coteaux d’Ancenis(後編)

Paul Klee-BunteMahlzeit

ワインの見つけ方

後半は、いよいよ画中のワインに迫っていきます。

この作品が描かれた当時作家がどこにいたのか。私はたいてい、ここから始めます。
もちろん、制作地のワインをいつも飲むわけではないでしょう。

でもそこがワイン産地に含まれる場合はなおのこと、描かれたものが会食などの光景でなければ、絵のモデルとしてより手に入りやすく、普段からキッチンにありそうな、地元のワインを手に取ることが自然な流れではないかと思うのです。
(今のように流通が異常に発達し、チリワインが日本ワインの1/5の価格というなら話は変わってきますが…)

ドイツワイン?

さて、この作品が描かれたのは1928年。
作家はデッサウでバウハウスに勤務している頃で、学校の用意した教員用住宅に住んでいました。
デッサウはドイツのやや北東に位置し、ザクセン=アンハルト州に属します。
「デッサウ」と調べると「バウハウス」、と出てくるほど、他にはこれといった特徴が見当たりません(失礼)

ところで、寒いドイツですが南西側はワイン産地としても栄えています。本ブログではムンクの回に一度登場しました。

カラフルに塗られた部分がワイン産地。 南西に固まっていることが一目瞭然

農産物の生産地域には一定の気候条件が必要です。

ワインの場合、北緯/南緯 30-50°あたりがそれにあたり、「ワインベルト」と呼ばれています。
(ちなみに、南北20°くらいでコーヒーベルト、20°くらいになるとカカオベルトというものが存在します)

デッサウの位置するザクセン=アンハルト州は、ドイツでみると中心からやや北東、隣のザクセン州がワイン産地としては最北東に位置しています。
北緯51度というぶどう栽培にはかなりギリギリのライン(最近では温暖化でその範囲は北上してきてはいるものの)で、エルベ川沿いにはヴィンヤードが広がっており、高品質の白ワインができます。

エルベ川。 こんな川の側で作られるワインなんて、美しいに決まってる

と、ここまでドイツのワイン生産事情を見ておいてなんなのですが・・
今回はドイツワインではないのではないかという推測に至ります。

理由は3つ。

一つは、画中のワインが赤ワインであること。
前述した通り、ドイツはワイン産地であるとはいえ、圧倒的に白ワインの生産量の方が多い。赤ワイン用ぶどう品種の栽培面積は、1980年代半ばに36%となったに過ぎません。正確な数字はわからないものの、その半世紀ほど前では割合はさらに少ないものだったはず。
北東に位置するザクセン地方ではなおさらです。

二つ目には、「コニャック」が描かれていること。ドイツでももしかするとあまり苦労ぜすコニャックは手に入ったかもしれませんが、フランス南西地方の特産であるこのブランデーが、バウハウスの教員住宅にあるのはどうも不似合いな気がするのは私だけでしょうか。

クレーの足跡

最後の点として、これが決定的だったのですが・・
クレーの足跡が大きなヒントをくれました。上記のような二つの違和感を覚えていたところだったので、正直我が意を得たりという感じです。

1928年、年末にはエジプトへ旅立つクレーではありますが、先立って夏にはフランス・ブルターニュ地方に旅行をしていたのです。

ブルターニュ地方といえばワインよりもりんごから作る発泡酒のシードルが主流です。
しかし、ゴーガンの回でも書かれている通り、すぐ近くにはロワールの大ワイン産地が広がっています。

再び登場、ロワールのワイン産地。 ナントから北上するとすぐにブルターニュ地方に。 川沿いにずーっと葡萄畑が広がっていますが、濃ピンクの部分がコトー・ダンスニ。

その中でも最も大西洋に近いエリアであるナントは、ブルターニュにもほど近く、ワインの流通も比較的容易だったのではないかと考えられます。

このあたりで赤ワインの産地を探します。すると、「コトー・ダンスニ」というエリアが浮かび上がってきました。ナント市の東にある「アンスニ」という町を中心に、ロワール川両岸にまたがって広がる産地で、赤もロゼも白も生産しています。ぶどうはこのブログでも何度か登場した「ガメイ種」。

涼しい気候も手伝って深みのある味わいにはならず、フレッシュな口当たりや、チャーミングな香りを楽しむワインです。画中に登場しているのは鮮やかでかわいらしい、透明感のある赤色ですので、ぴったりではないでしょうか。

さらにいえば、そんな味わいはこの作品の雰囲気とも調和します。例えば前回登場したスペインのテンプラニーリョの濃厚感ではしっくりきません。

ブルターニュ

ここでブルターニュ地方について少し詳しくみてみましょう。
特産品はシードルの他に蕎麦、塩、豚肉、バターと乳製品、牡蠣と魚介類、など、想像するだけで嬉しくなるラインナップ。フランスは各地食の特性がありそれぞれ魅力的ですが、この寒い地域でこれだけの食材が育まれるというのはテロワール(土地と人)の豊かさを感じざるを得ません。
ブルターニュの食事情を調べていると、こんなものを見つけました。

豚の腸をくるくる巻いて外側を牛の腸で固める、という面白い作り方をするコールドミート

アンドゥイユ、という豚肉の燻製ソーセージなのですが、これがブルターニュ地方が起源だということがわかりました。

かつては主夫として毎日台所に立っていたクレーのこと、この面白い食材に目を奪われても、まったく不思議ではありません。

作品に登場するこのよくわからないぐるぐるしたもの、、比べてみると、いかがでしょう。

 

 

魚か肉か

ところで、前々回に取り上げたブラックもそうですが、クレーも魚を多く描いた画家でした。

魚たちのまじない/1925
魚たちのまじない/1925
金色の魚/1925  魚といえばイエス・キリストを思いおこさせますが、クレーの場合そういった象徴としての使い方はしていないような気がします

しかし今回は「食事」と題しておきながら魚は見当たりません。
その代わりに肉を描いたのかも、しれません。赤ワインですし。

右下のコニャックはフランス西部、ボルドーにほど近いところが生産地。
左上にある塔は、中世の面影を残すブルターニュのモチーフにも見えます。

海を臨むブルターニュ

この作品が描かれたのが果たして何月のことだったのか、本当のところはわかりません。

しかし、フランス・ブルターニュのエッセンスをふんだんに感じることから、今回は「夏季休暇で滞在したブルターニュで描かれたもの」若しくは「夏の思い出をもとに秋に仕上げたもの」と推測し、ワインもフランスワインを選ばせていただきました。

*

日本も中秋の名月を過ぎ、突然秋の気配です。
涼しくなったら、ブルターニュ特産のガレットでも食べに行きたいところです。
たまにはワインをお休みして、シードルでも飲みながら。

Paul Klee “Bunte Mahlzeit” (1928) /Neue Galerie Written by E.T.

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