Georges de La Tour / ダイヤのAを持ついかさま師 × Vin Gris(後編)

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前週に引き続き、謎深きバロック絵画の巨匠 Georges de La Tour (1593-1652)(以下、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール)の “Le Tricheur à l’as de carreau / ダイヤのAを持ついかさま師” である。

まずは名前の由来から。実はほぼ同じ構図の絵がもう1枚存在する。アメリカはテキサスのキンベル美術館が所蔵する “Le Tricheur à l’as de trèfle / クラブのAを持ついかさま師” である。もちろんこちらもジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品。ご注目頂きたいのは左端のいかにも悪そうな男「いかさま師」が背後に隠しているトランプの絵柄である。画題にある通り、片や「ダイヤのA」片や「クラブのA」。画家が同じ構図の絵を複数枚描くことは特に珍しいことではないが、トランプの絵柄を変えてくるところがジョルジュ・ド・ラ・トゥールの洒落た遊び心であろう。

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全体観に戻って。左端の男性は「いかさま師」だとして、ワインを持った侍女と真ん中に座した能面の女性は恐らく「グル」であろう。となると、右端の若い青年がいわゆる「カモ」。黙々と次の一手について考えている青年とは裏腹に、左の3人はともに目配せをして、青年がベットした金貨を今にも食おうとしている様子が伺える。特に表情を窺う侍女の青年に対する視線が鋭い。

「いかさま師」のモティーフが流行ったのは、1595年頃にそれこそバロック絵画の始祖 Michelangelo Merisi da Caravaggio (1571-1610)(以下、カラヴァッジョ)によって “I bari / いかさま師” が描かれてから。こちらもキンベル美術館の所蔵であることを踏まえると、2枚の偉大な「いかさま師」をコレクションに持つこの美術館は、なんて幸運なことだろう。

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さて、後編の本題は「画中のワイン」について探ること。侍女がカクテルグラスに入れて能面の女に手渡そうとしているワインは何か。

ヒントは3つ。

その1は「画家の経歴」に関して。前編でも触れた通り、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールはその人生の殆どをロレーヌ公国で過ごしたという点。上述の通り「カラヴァッジョ」との接点もあるものの、フランスを除いては国外に出たという記録もなく、描かれた世俗画はおおよそロレーヌ公国の文化と捉えて良いだろう、ということである。

その2は「ワインボトル」に関して。侍女が左手で持つワインボトル、「クラブのA」の方がその全貌を捉えやすいが、植物のツルのようなもので保護した球体に近いボトルの形状をしている。1600年代後半以降のボトルの変遷については Luis Meléndez の回で触れたが、本作が描かれたのは半世紀前の1600年代前半。ちょうどガラスの成形技術革新の過渡期であり、まだ確立まではしていなかったことから、ボトルとしては初期の最も簡単な「吹き成形」型をしている。強度も弱かったため、それを柳のような強い植物で補強していたという訳である。つまり何が言いたいかというと、運搬にもあまり適していなかったということである。そう考えると地産地消、恐らくワインもロレーヌ公国のものと考えて良いだろう。

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その3は「ワインの色」である。いずれの「いかさま師」を見ても赤ワインとしてはやや淡い色をしているように感じる。テイスティング・コメント的に言えば “Clairet / 淡い赤色” とか “Rosé Franc / ピュアな薔薇色” とか、そのようなフレーズになりそうだ。

 

3つのヒントを元に見えてくるのが、ロレーヌ地方特有の “Vin Gris” と呼ばれるワインである。そもそも「ロレーヌ地方」というのも聞き馴れない響きかもしれないが、リースリングの産地として有名な「アルザス地方」の北西部に位置する、フランス最北のワイン産地である。料理好きな方は、ベーコンとグリュイエールチーズで作る「キッシュ・ロレーヌ」の名前でご存知かもしれない。フランスではあまり目立った産地ではないが、アルザスのヴォージュ山脈を水源に持つモーゼル川流域に位置しているため、広い視野で見ればドイツのワイン産地「モーゼル」のフランス側の入り口とも言える。

話を戻して “Vin Gris” と呼ばれるワイン。「グリ」とは直訳すれば「灰色」という意味で、果皮が藤色がかった白ブドウ、例えばピノ・グリや日本の甲州などを「グリ系品種」と呼んでいる。つまり、グリ系の白ブドウ品種で白ワインを作れば、それは即ち「グリワイン」になる訳だが、“Vin Gris” は少し異なる。ピノ・ノワール等の黒ブドウ品種を白ワインの造り方(直接圧搾)で仕込む。殆ど「ロゼワイン」の造り方に近いが、例えばサンソー、グルナッシュ、ムールヴェードル、シラーと言った果皮の濃い黒ブドウ品種から造られるプロヴァンス地方のロゼワインとは異なり、もう少し淡いピンク色に仕上がる。

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ロレーヌ地方ではこの “Vin Gris” が有名である。特に現在では AOC Côtes de Toul として整備されているが、(ピノ・ノワールではなく)ガメイを主体としている点がロレーヌ地方の “Vin Gris” の大きな特徴である。

という訳で、今週の「名画のワインリスト」はガメイ主体の “Vin Gris” ということにさせて頂く。

 

Georges de La Tour “Le Tricheur à l’as de carreau” (1636-38) ルーヴル美術館所蔵

Written by Fumi “Frank” Kimura

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