Auguste Chabaud / ブドウの冬剪定 × グルナッシュ(後編)

Les_tailleurs_de_vigne

 

前編では Auguste Elysée Chabaud (1882-1955)(以下、シャボー)という画家について、その概要を触れた。

日本国内での知名度は必ずしも大きい訳ではないが、母国フランスではフォーヴィスム、キュビスムの画家として高い評価を得ている。例えば 1913年にニューヨーク、シカゴ、ボストンで開催された巡回展 “International Exhibition of Modern Art” では、Henri Matisse (1869-1954) や Pablo Picasso (1881-1973) らと肩を並べるフランス画家として異国の地で紹介を受けていたことからも、シャボーがどこぞの「ただ者」ではないことが容易に推察される。

 

さて、本作においては「ブドウの冬剪定」がモティーフであること、またシャボーがアトリエを構えていた「グラヴェゾン」という土地の、しかも彼の親族が所有していたかもしれないブドウ畑のワンシーンであること、について前回で触れたが、今週はそのブドウ品種について考えてみようと思う。

今回は「グラヴェゾン」はどこか、というのが唯一にして最大のポイントとなる。まず Erico さん作のコート・デュ・ローヌ地方南部のマップで指し示すと、ちょうど一番下の方、二股に分岐するローヌ川の南に位置する。アヴィニョンからもそう遠くはない。

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コート・デュ・ローヌ地方南部地区のマップ

 

折角なので、なかなかこれまで触れる機会が少なかったコート・デュ・ローヌ地方の全貌について簡単にコメントしておこうと思う。

コート・デュ・ローヌ地方は、アルプスから端を発し地中海に流れ込むローヌ川の腹部に両岸に沿って位置する、南北 200km 程度のワイン産地である。北はボージョレ地区、南にはすぐプロヴァンス地方が広がっている。

コート・デュ・ローヌ地方のワイン史上における最も重要なターニング・ポイントは、14世紀に起きたローマ教皇庁のアヴィニョンへの移転、所謂「アヴィニョン捕囚」であり、1309年から1377年までの68年間に亘って続いた乱世は、こと同エリアのワイン産業にとっては大きくプラスに働いた。当時のアヴィニョンは片田舎も同然であったが、フランス王による強制的な捕縛とは言え教皇庁がローマからアヴィニョンに移転を命じられたことで、ワイン造りは飛躍的に発展した。例えばコート・デュ・ローヌ地方を代表する AOC である“Châteauneuf-du-Pape / シャトーヌフ・デュ・パプ” は「教皇の新しい城」の意味であり、それ即ち「教皇庁」そのものを指している。

 

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Châteauneuf-du-Pape とのマリアージュは、マグロとビーツとプチトマトを紫蘇の花や芽ネギ、山椒、醤油等で軽く和えた、見栄えも鮮やかなお料理で (Foods by Kenta Yamamoto & Photo by Erico)

 

ローヌ川の両岸に南北に広がるコート・デュ・ローヌ地方は “Septentrional / 北部地区” と “Meridional / 南部地区” とに分けられ、ひとえに同じ地方とは言えどもワイン産地としての特徴は大きく異なる。実際、北部地方と南部地方には 60km 程度の距離的隔たりがあり、別々の産地として捉えた方が本当は理解しやすいのだろう。

“Septentrional / 北部地区” はローヌ渓谷の急勾配の斜面にブドウ畑が広がっており、東西の幅は狭い。穏やかな大陸性気候であり、南向きの斜面は特に日照量に恵まれている。著名な AOC としては左岸の “Hermitage / エルミタージュ” が挙げられるが、個人的には右岸の “Côte-Rôtie / コート・ロティ” に思い入れがある。黒ブドウはシラーが殆どであり、白ブドウのヴィオニエやマルサンヌ、ルーサンヌを補助品種として使用することもある。

“Meridional / 南部地区” は小高い丘陵地帯であり、幅の狭い北部地区とは異なり、ワイン産地にも広がりを感じる。またローヌ川の下流域であることもあり、そこら辺にやや大きめの丸い小石が転がっている。地中海性気候に属し、プロヴァンス地方に近づくほど「ミストラル」という強く乾いた北風の影響が大きくなる(「ミストラル」の影響は Vincent van Gogh (1853-1890) の回でも少し触れている)。前述した “Châteauneuf-du-Pape / シャトーヌフ・デュ・パプ” が筆頭であり、13種類もの黒ブドウ、白ブドウの混醸が認められているという、珍しい AOC である。中でも主要品種としては、黒ブドウのグルナッシュが挙げられる。

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Côte-Rôtie の E. Guigal の Château d’Ampuis の背後に広がるブドウ畑。傾斜の勾配が分かるだろう

 

話を戻して、本作のブドウ畑。「グラヴェゾン」がコート・デュ・ローヌ地方の南部地区に位置していることから考えると、グルナッシュが最も妥当な結論と言える。

白銀の大きな剪定鋏を手に、身体を小さく屈めてブドウの枝とひたむきに向き合う男たちの姿は、冬から春にかけて特に強く吹くミストラルとの格闘の痕跡かもしれない。

 

日本ではまだまだ知られていないシャボーという画家。「ワイン」という日常を通じて、少しだけ身近な存在に近づけたような気がして、またそれを皆さんと共有できることがただただ嬉しく、どこか少し誇らしい気持ちになった。

 

Auguste Elysée Chabaud “Tailleurs de vignes” (1925) シャボー美術館所蔵

Written by Fumi “Frank” Kimura

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