
ギュスターヴ・ドレ(Paul Gustave Louis Christophe Doré 1832/1/6 – 1883/1/23) はフランスの画家です。
ウィキペディアでは「画家」と最初に紹介されていますが、続いて版画家、イラストレーター、風刺画家、彫刻家、と続き、実際のところ、一般的に彼の作品は、名著の挿絵として制作された膨大な版画の数々が先に思い浮かびます。
セルバンテスのドン・キホーテ、バイロンの詩やバルザック、ミルトン、エドガー・アラン・ポー、そしてダンテの「神曲」。
これらの圧倒的な作品数に圧されて、彼のペインティング(油絵)や彫刻は影を潜めています。

ドレは壮大な空想力を遺憾なく挿絵に発揮しましたが、故郷アルザスを題材にしたロマン主義の風景画を、ドラマチックに幻想的に、生涯描き続けた画家でもあるのです。


今回、実は少し迷いましたが、ワインとアートの狭間をいく本ブログとしてはシェアしておきたい作品をご紹介します。
取り上げるのは5年をかけて制作されたブロンズ、“Poeme de la Vigne” (葡萄の詩)です。
サイトが始まって以降いくつかの番外編もありましたが、ご覧の通り今回は名「画」でもありません。が、れっきとした ”Master piece” 。
アートを取り上げる際、その作品が平面であるか立体であるかに、実はさほど大きな隔たりはありません。
という前置きで、今回は高さ4mもの巨大な「ぶどうのうた」を見ていくことにしましょう。

Tour de Force

たくさんのキューピッド、もちろんバッカスとその他たくさんの神々が、葡萄とその蔦と絡み合っています。ここに描かれているのは、葡萄栽培の奮闘とワインの喜び。
フランスワインとフランスのワイナリーへのモニュメントとして制作されました。
「喜びのワイン」へのステージ
作品はざっくり3つのパートに分かれます。
壺の下方を見ると、害獣や害虫(もちろんフィロキセラ)と戦い葡萄を守るキューピッドが描かれ、そんなことは気にも留めない様子で葡萄の蔦はスルスルと優雅に壺を這っていきます。
この害虫のリアリティにはぞっとしますが、キューピッドの非現実性との対比も相まって、さらに末恐ろしいです。(神曲の地獄世界を描いてきたドレにはこともないのでしょうけど)

そして中央部分では、盃を持っていることからついにワインが出来上がったことがわかります。ワインが周りに与える歓喜の影響とともに描かれ、その喜びは特に、官能性を伴っています。

最上部では再びキューピッドだけとなっていることから、この喜びはさらに純然な精神的なものへ昇華されているように思えます。

展覧会のため一時的にこのブロンズを展示した、カナダのナショナルギャリーの解説動画を観ることができました。
それによると、ラテン文化圏、とくにフランスでは「人をもてなすための愛や、私たちが洗練されるためには、良い食事と良いワインとが不可欠」という精神があり、それはこの作品に芯のステートメントとなっているとのこと。
とてもフランスらしく、嬉しくなります。

この作品が制作されていたのは、まさにフランスがフィロキセラの恐怖に見舞われていた時代でした。
様々な詩歌に挿絵を提供してきたドレらしく、古代から続く神話の神々を登場させながらも、ずいぶんと時代を反映させた作品を制作したようです。
きっとそれだけ彼の想いも詰まっていたのではないでしょうか。
ところが、フランスワインのモニュメントとして制作されたのにも関わらず、いえだからこそ、この作品が発表された当時、ワイナリーからの批判も少なからずあったそうです。
それはフランスワインらしからぬボトルの形状に依ってのことで、イタリアワインじゃないんだから、というものでした。
イラストレーターだけではない
多方面で成功を納めたドレですが、51歳と若く亡くなっており、この作品は最晩年の大仕事といえます。
50歳までの有意義な40代を、「ワインのボトル制作」に関わっていたとは、「神曲」の挿絵を見ているだけでは想像できない、彼の一面です。
ドレは生前非常に評価されていたので、その面では幸せなアーティストだったと言えます。が、死後はその俗的な仕事から一気に評価されなくなり、現在でも多くの業績を残した画家としては名が知られているとは言えません。
偶然にも全く同じ年代を生き、生前は批判にさらされ続けたマネとは正反対です。
(Édouard Manet 1832/1/23 – 1883/4/30)
当初は、パリがこの作品を購入予定だったそうですが、ストラスブールが彼の故郷に置くべきだと主張し、(どんな時代でも起こる論争ですね)最終的にはそのどちらにも収まらず、今ではサンフランシスコにあるという不思議な運命を辿っています。
The Poem of the Vine (1877–82) Bronze, 396.2 × 208.3 × 208.3 cm サンフランシスコ美術館所蔵
Written by E.T.
コメントを残す