名画のワインリスト × ガロンヌ川を上ってみると…(前編)

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これまで主に絵画にフォーカスを当てて、ワインとの共通項を探ってきた。
その絵画が描かれた、もしくはモティーフとなった「場所」がヒントのこともあったし、そうではなくてワインを嗜む際の「シチュエーション」が決め手となったこともあった。

今回は少し視点を変えてみようと思う。
題して「名画のワインリスト × ガロンヌ川を上ってみると…」。

ワイン産地と「川」は切っても切れない縁がある。
ひとつは「テロワール」の一部として、もうひとつは「輸送」の手段として。
例えばドイツワインの殆どの畑はライン川やモーゼル川に沿った急斜面に存在するが、ワイン産地の極限である北緯50度(最近 The New York Times に Scandinavian Wine? A Warming Climate Tempts Entrepreneurs という記事が出た時はさすがに衝撃だったが…)に位置するブドウ畑にとって「川面からの太陽光の照り返し」と「川の豊かな水量による保温効果」はブドウの成熟にとってなくてはならない重要な要素である。また19世紀後半に鉄道が敷設されるまで、それらの川は舟でワイン樽を運ぶのに一役買っていた。

という訳で「川」にフォーカスを当てながらアートを探してみたい。
チョイスに少し迷ったものの「ガロンヌ川」を選ぶことにした。
河口には言わずと知れたワインの銘醸地ボルドー地方があることに加え、上流に遡ると遠い昔には「奥地のワイン」とも言われた南西(Sud-Ouest)地方が広がる。

 

最初に「ガロンヌ川」についてざっくりと。
「ガロンヌ川」の源流は、フランスとスペインの国境を跨ぐピレネー山脈にある。トゥールーズ近郊でアリエージュ川と合流し、またもう少し北へ行くとタルン川やロット川と合流する。3本の支流によって水嵩の増した「ガロンヌ川」はボルドー市内を過ぎたところでドルドーニュ川と合流し、ジロンド川と名前を変えて大西洋に注ぐ。

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Ivan Paz-Vinas 氏、Frédéric Santoul 氏による “Le Silure glane (Silurus glanis L.) : connaissances et estimation des stocks dans le bassin de la Garonne.” (2018) 中の図表を一部加工して使用

 

おおよその地理が分かったところで、さっそく舟旅を始めよう。
皆さんも旅行でもする気分で、大河の流れに身を任せ…いや流れに逆らって、河口から上流に一緒に遡っていこう。

「ガロンヌ川」の下流域、即ちドルドーニュ川との合流地点からスタートだ。

右手には広域 AOC. Haut-Médoc / オー・メドックが広がる。AOC. Haut-Médoc は世界最高峰のカベルネ・ソーヴィニヨンが産み出されるエリアであり、その南端には「五大シャトー」のひとつとして知られる Château Margaux / シャトー・マルゴーが白亜の館を構える村名 AOC. Margaux / マルゴーが在る。

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Château Margaux の白亜の館(出所:Wikipedia)

 

もう少し舟を先に進めよう。南方に 20km 程度上ると、右手にボルドー市内の街並みが見えてくる。“Port de la Lune / 月の港” としてユネスコの世界遺産にも登録されているように、「ガロンヌ川」は三日月のような大きな弧を描いて蛇行している。そのほとりに在るボルドーには、その昔、ワインを世界中に運ぶための大きな港があった。ユネスコに拠れば「この町はローマ帝国の植民地となった紀元前56年以降に発展をはじめ、12世紀後半には世界有数のワイン生産地として、イングランドやスコットランドなどと貿易を行う一大商業都市となった」とのことである。これが「月の港」と呼ばれる所以である。

「月の港」はモティーフとして絵画にも良く登場する。例えば、印象派の先駆者 Edouard Manet (1832-1883) も1871年に「月の港」を題材とした絵を描いている。「ガロンヌ川」には数え切れないほどの舟が浮かび、左手前では男達がワインの木樽を舟に載せようとしているのが見て取れる。まさに「繁栄」と言った言葉に相応しい賑わいぶりだ。

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Edouard Manet “The Port of Bordeaux” (1871) ビュールレ財団コレクション所蔵

 

ボルドー市内を過ぎると、右手に AOC. Pessac-Léognan / ぺサック・レオニャンと AOC. Graves / グラーヴが見えてくる。AOC. Haut-Médoc は多くが黒ブドウ畑であったが、ここら辺から漸く白ブドウ畑が散見されるようになる。多数派は引き続きカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロのブレンドだが、セミヨンやソーヴィニヨン・ブランから造られる辛口の白ワインもAOC. を名乗るのに認められているからだ。

グラーヴ地区の AOC. Pessac-Léognan には、メドック地区ではないにも関わらず唯一「1855年の格付け」に選ばれている「五大シャトー」のひとつ Château Haut-Brion / シャトー・オー・ブリオンが存在する。17世紀には既にその名声が確立していたというから、その歴史とクオリティの高さが窺える。

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Château Haut-Brion Premier Grand Cru Classé 2010

 

AOC. Graves を進んで行くと、右から幅の狭い小川が合流してくる。シロン川である。「支流」と呼ぶにはか弱過ぎるその川もワインにとっては「偉大な小川」である。

シロン川を取り囲むようにして、手前にAOC. Barsac / バルサック、奥に AOC. Sauternes / ソーテルヌが在る。甘口白ワイン(貴腐ワイン)の産地として世界で最も有名である。「偉大な小川」と呼ぶその理由は、水量豊かなガロンヌ川と水深の浅いシロン川の水温差に起因して生じる「霧」にある。その「霧」が秋になって完熟したセミヨン等のブドウの表面に付着することで貴腐菌(正確にはボトリティス・シネレア菌というカビの一種)が発生し、果皮に小さな穴を開けることで果汁中の水分が外に蒸発して中の糖分が濃縮される。この「神の悪戯」がなかったら、貴腐ワイン界の頂点に君臨する Château d’Yquem / シャトー・ディケムも存在し得なかった。

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貴腐菌の付着した白ブドウ(出所:Château Climens ホームページ)

 

これでボルドー地方の旅は終わり。
次週は更に「ガロンヌ川」の上流、南西地方へと「帆」を進めていこう。

 

《後編に続く》

Written by Fumi “Frank” Kimura

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