名画のワインリスト × ガロンヌ川を上ってみると…(後編)

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前週から続く、ワインとアートの舟旅。
大西洋に注ぐジロンド川は世界でも稀な「三角江」であり、入り江の最奥がドルドーニュ川とガロンヌ川の結合点である。そこからガロンヌ川を遡ってみよう…というこの企画。

AOC. Haut-Médoc / オー・メドックから始まり、「月の港」ボルドー市街を抜けて、AOC. Pessac-Léognan / ぺサック・レオニャンと AOC. Graves / グラーヴ、AOC. Barsac / バルサック、AOC. Sauternes / ソーテルヌと、ボルドー地方でも非常に重要な生産エリアを右手に見ながら旅を続けてきた。

 

ボルドー地方を過ぎたところで、今週はもう少し舟を走らせ、南西(Sud-Ouest)地方を訪れてみよう。

南西地方は遠い昔「奥地のワイン」と揶揄され、ボルドーワインの後塵を拝していたこともあったが、生産エリアが大きく東西南北に散らばっているため、個性は実に様々で面白い。ボルドーは早々にその名声を確立してしまったために固有の名称が付されているものの、恐らく「フランスの南西エリアに広がるブドウ産地のうち、ボルドー地方を除いた全てのエリア」を南西地方と呼んでいるように思える。

さて、左右にブドウ畑を見ながらガロンヌ川を遡ると、最初の支流であるロット川が見えてくる。

寄り道してみよう。

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再掲。出所は前編参照

 

ロット川に入ると、暫くして AOC. Cahors / カオールが両岸に広がってくる。ブドウ品種マルベックの代表産地であり、地元ではコットとかオーセロワとも呼ばれている。マルベックはアルゼンチンに移植されて大成功した品種であることから、今ではそちらの印象の方が強いと思うが、起源はこの辺りであり、AOC. Cahors はフランスで唯一マルベックを主要品種として赤ワインを造っている産地である。
また、主に冬から春にかけてローヌ渓谷沿いで発生する冷たい北風ミストラルとはまるで異なり、この辺りでは夏から秋にかけて暑く乾いた南西風オタンが吹くため、ブドウが良く熟す。
実は小粒で果皮が厚く、タンニン量が豊富なため、ダークチェリーのような濃い味わいに仕上がる。そのため AOC. Cahors のマルベックを「黒ワイン」と呼ぶことがある。

遠くに耳を傾けると「ぐわっぐわっ」という重低音が聴こえてくる。ヒキガエルとも声の周期が異なる…
鳥だ、恐らく鴨だろう。
この辺りはフランスを代表する食材、フォアグラの産地として知られる。
“magret de canard”…日本では「マグレ鴨」として知られるフォアグラ用に飼育された鴨の胸肉のローストや、腿肉のコンフィは、AOC. Cahors のマルベックと良く合うとされる。

 

ロット川を東に進む。
AOC. Marcillac / マルシヤックを抜けると、いよいよ “Massif Central / 中央高地” が見えてくる。フランスの国土の15%程度を占める巨大な山塊。
さすがに水深も浅くなってきたので、舟を降りる。緩やかな山道を 20km ほど暫く歩くと、小さな街が現れた。Laguiole / ラギオールである。

Laguiole と言えば、ソムリエ・ナイフの街として有名である。中でも Forge de Laguiole と Château Laguiole は村名を冠した2大ブランドである。
筆者もワインラヴァーの端くれとして Château Laguiole を携帯しているが、もはや芸術の域である。

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国際ソムリエ協会世界最優秀ソムリエコンクール1989年大会で優勝した Serge Dubs 氏のシグネチャーモデル。ソムリエ・ナイフとケースの双方に描かれた鳥は、彼の故郷アルザス地方のシンボルの「コウノトリ」

 

それまでのソムリエ・ナイフはドイツ製の無機質でメタリックなものが多かったが、ハンドル部分の素材に水牛の角や木材を取り入れたことで実用性・機能性とデザイン性が兼ね備わった Laguiole 村のソムリエ・ナイフは、瞬く間に世界中のソムリエ達の憧れの的となった。

なお、ハンドルの背やケースの留め具に描かれた虫は “abeille / ハチ” であり、Laguiole 村のシンボルである。遡ること皇帝ナポレオンの時代に、勇敢に闘った Laguiole 村の戦士達に、ナポレオンの紋章の一つであるハチを刀剣等に装飾することを許可したことがきっかけとされる。

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Jean-Auguste-Dominique Ingres “Napoléon Ier sur le trône impérial / 玉座のナポレオン” フランス軍事博物館所蔵。ナポレオンが羽織った深紅のマントに金色でハチが刺繍されている

 

ガロンヌ川とロット川の分岐点まで戻ろう。
妄想の世界では一瞬にしてワープできるので移動が楽で良い。

ガロンヌ川の本流を南東に上っていくと、右手にまたブドウ畑が広がっている。
もちろんワインも造られるのだが、この辺りは AOC. Haut-Armagnac / オー・タルマニャック、即ちブランデーのアルマニャックの産地である。アルマニャックは白ワインを連続的に蒸留して造るため、白ブドウの作付割合が増えてくる。特に雑味のない繊細な味わいを導くためある程度のブドウの酸度が必要とされ、ユニ・ブランやフォル・ブランシュといった、あまり白ワインには馴染まない品種が寧ろ好まれる。

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AOC. Bas-Armagnac / バ・ザルマニャック 1956(出所:Wikipedia)

 

そのようなことを考えている間に、左手にタルン川が現れる。
実はこの先のガロンヌ川の本流と支流のアリエージュ川の上流には AOC としてのワイン産地はなく(東に行けば意外とすぐにラングドック・ルーション地方に突入するが)、タルン川が即ちこの舟旅のゴールとなる。

タルン川に入るとすぐに間も無く AOC. Fronton / フロントンが現れ、そして AOC. Gaillac / ガイヤックがそれに続く。

特に AOC. Gaillac は歴史あるワイン産地である。
ガロンヌ川の河口からは相当舟旅を続けてきた「奥地中の奥地」の印象だが、ワイン・ジャーナリストの柳忠之氏に拠れば「その名声はイギリスやフランスの宮廷で轟いていた。ガイヤックのワインは、英国王ヘンリー3世が1253年に20樽をイギリスに運ばせた記録がある」(出所:一般社団法人日本ソムリエ協会 教本2018)とのことである。
Gaillac では赤・ロゼ・辛口白ワインの他に、発泡白や甘口白ワインも造ることを許されており、デュラスやフェル・セルヴァドゥ、レン・ド・レルといった土着のブドウ品種を中心に、遥か昔から独自のワイン文化を形成していたことが窺える。

 

旅もそろそろ終着点に近付いてきた。
最後はタルン川沿いの小さな街 Albi / アルビに立ち寄ろう。
Albi と言えば本ブログにおいても第3作品目に登場した Toulouse-Lautrec (1864-1901)(以下、ロートレック)の生まれ故郷であり、彼の死後に母親が市に寄贈した作品がコレクションの中心となっているトゥールーズ=ロートレック美術館がある。
ロートレックの最期は、前編に登場したソーテルヌ&バルザック地区の AOC. Cadillac / カディヤックに近いマルロメ城であるから、ガロンヌの川(タルン川)のほとりに生まれてガロンヌ川に死したことになる。

波乱万丈の人生を歩んだロートレックも、偉大なる大河の流れに包まれながら、安らかな永遠の眠りについたことだろう。

Lautrec_reine_de_joie_(poster)_1892
Toulouse-Lautrec “Reine de Joie / 快楽の女王” (1892) トゥールーズ=ロートレック美術館所蔵

 

これでガロンヌ川の舟旅も終わり。
ぜひ機会があれば、他の世界中の川を旅してみたい。
勿論、妄想でワインとアートを巡りながら。

 

Written by Fumi “Frank” Kimura

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