J.M.W. Turner/ワイン樽のある洞窟内(後編)× Saumur mousseux

Cave Interior with Wine Barrels, near Saumur c.1826-8 by Joseph Mallord William Turner 1775-1851

描かれたワイン”樽”

この作品は、画家がロワール地方を旅した時に描かれたことがわかっています。
その時の観察をもとに、前編でもご紹介した ”Wanderings by the Loire” (ロワール川散策)という版画集が出版されています。

では早速、画中を観察してみましょう。

この作品に限らず、この画家の作品の多くは抽象画でもないのにタイトルなしではなかなか読みにくいものです。
「ワイン樽がある」と言われれば、確かに中央に集合している丸っこい物の集合が樽だと認識できます。

左手には階段とドアらしきもの、右手に見えるのは座っている人でしょうか。

何よりもこの場所の特徴は、「洞窟」であるということです。ブログタイトルでは無理やり日本語訳していますが、原題タイトルを「Cave Interior with Wine Barrels, (near Saumur)」といいます。

この「Cave」は、それだけで「ワイン貯蔵庫」の意で使われることもありますが、ここではまさに「洞窟」として使われているようです。左手の大きなカーブの穴や天井など、ゴツゴツとした表面を伴ってトンネル状になっていることから、ここが実際に洞内であることがわかります。

ソーミュールのワイン

さて、原題を見てお気付きの通り、実はすでにここには「near Saumur」と今回のワインの答えが出てきています。
しかしそれで終わるわけにはいきませんので、もう少し「ソーミュール」を探っていきましょう。

なんども登場しているロワール地図。全長1000kmを超すロワール地方は大きく4つの地域に分けられるが、ソーミュールはその中で「アンジュー・ソーミュール」に括られ、ロワール川中流にあたる。

実はタイトルを見ずとも、ここがソーミュールであることは察しがつきます。その理由が、先述した「洞窟」。

特に「コトー・ド・ソーミュール」と呼ばれるエリアは丘陵地帯で、石灰質の崖になっています。この崖には昔使われていた石切場があり、そのおかげで人工的な洞窟が多数できています。
この洞窟が、昔から大ワイン貯蔵庫となっているのです。

現在の洞窟内貯蔵庫

では、その貯蔵庫内のワインはなんなのでしょうか。

ソーミュール地方のワインといえば、赤は、ぶどう品種「カベルネ・フラン」から主に造られるもの。(ロワール地方に関してはゴーギャンカイユボットクレーの回など参照)透明感のある美しい外観を裏切らず、フランボワーズやスミレのような香りの爽やかなワインで、生産地によっては豊かなベジタルの香りも。
白はシュナン・ブランを主体として造られ、割と黄色みがあり、やはり爽やか、繊細でナチュラルな味わいです。「カベルネ・ド・ソーミュール」という、カベルネ・フランとソーヴィニヨンから作るロゼもあります。

そしてここで特筆すべきが、「ソーミュール・ムスー」と呼ばれる発泡ワイン。これはシャンパーニュと同じ製法(瓶内二次発酵方式)で造られる、本格的なものです。

ソーミュールの発泡ワイン

使うぶどう品種は白と同じく主にシュナン・ブランですが、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランも40%以内で使われます。
ムスーは9ヶ月以上熟成させる決まりがあるのですが、その熟成にこそ、今回の「洞窟」が使われるのです。
この洞窟のおかげで、ソーミュールの発泡ワインが成功したとも言えます。

それを描き残してくれているなんて、ターナーのワインの情景に関するまさかの仕事です。

ちなみに「ソーミュール・ムスー」がA.O.C.として認定されたのは1975年と最近のことですが、この発泡ワインが造られるようになったのは19世紀初め。つまりちょうどこの作品が描かれた頃です。

もしかするとターナーは、訪れた先のワインメーカーに、新たに始まった取り組みを得意げに案内されたのかもしれません。

ロワール川散策

さて、せっかくなのでここで、出版された ”Wanderings by the Loire” にも目を向けてみましょう。
果たして彼は、ソーミュールについて何か書いているのか・・。
(ちなみにこの出版物は「版画集」なので、水彩で描かれた今回の作品は出てきません)

Wandering by the Loire. by Leitch Ritchie, ESQ with J.M.W. Turner / 1833

Saumur という目次は見当たりません。
ソーミュールは、特にワインを見る時には「アンジュー・ソーミュール」とまとめられているので、ここでは [ IV. ANJOU ]103ページへ行ってみましょう。しばらく読み進めると、ありました。

「ソーミュールは、道が川のすぐそばを走っており、トゥールと同じように石灰質の崖があるが、まだそこまでくり抜かれてはいない。葡萄畑や庭、別荘が3マイル以上続いている。」

やはり石切り場のようですが、まだまだこの時点では洞窟が広がる余地があったということでしょうか。残念ながらワインの味わいについての記述は見当たりませんでしたが
「ソーミュールから bourg of R osiers(原文まま)までの12マイルほどは、興味深いローマ遺跡や小村が点在しながら、トウモロコシや果物、ワインの豊かな産地であった。」

ともあるように、ワインには事欠かない道中だったことでしょう。

少し話が逸れますが、「ブルグイユ」というワイン産地について言及があったので、最後に合わせてご紹介します。

「9マイル以上にわたり果物や野菜、穀物やワインの豊かな産地が続く。葡萄畑は、消化を助ける特性を持つことで名高い、深い色調の赤ワインを産出するサン・ニコラ・ド・ブルグイユである。」

200年前から「名高い」、ブルグイユの赤ワイン。

本ブログ、本年は、シャンパーニュでの乾杯で始めさせていただきましたが、(クロイヤーの回参照)奇しくも同じく泡で締めることとなりました。

 

来週の2019年最終テーマは、特別編でお届けします。

どうぞお楽しみに!

 

 

Cave Interior with Wine Barrels, near Saumur (1826-8) テート美術館所蔵
Written by E.T.

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